人に伝わる文書を書くにはどうすればいいか。ジャーナリストの池上彰氏は、新人時代、先輩記者の原稿をひたすら丸写ししたという。なぜそんな方法をとったのか――。

※本稿は、池上彰『伝える力』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。

まず自社のフォーマットをよく知る

ビジネス文書の書き方について、技術的な話をしましょう。念頭に置くのは、報告書や提案書、企画書の類です。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/anyaberkut)

これらの文書には、企業や職場によるでしょうが、一般的には「フォーマット」が存在します。フォーマットとは、日本語でいえば、「一定の形式」のことです。

たとえば、報告書の場合は、「目的」「経緯」「結論」などが必須項目になります。報告書などをまとめる場合は、まず自社のフォーマットを知り、それに沿って文書を作成することが求められます。それだけで、ある程度の文書は書けるようになるものです。

次にすべきは、よき文書を書くための努力。そのためには、先輩や上司が書いた文書を見せてもらって研究することです。何人もが書いた幾種類もの文書を読み込んでいくと、それぞれの文書のよい面と悪い面が徐々に見えてくるようになります。説得力の有無、論理展開の優劣、わかりやすさ、文章のリズム、誤字脱字など、気づくことは多いでしょう。

優れた文章を書き写す

次には、できれば文章を書き写すことです。そうすることで、読んだだけではわからなかったそれぞれの文書のよい面、悪い面が、より明瞭に見えてきます。

私はNHKの記者時代、ニュース原稿を数え切れないほど書きました。しかし、入社当時は何をどう書いたらよいのか、さっぱりわかりませんでした。経験がなかったのですから、当たり前です。

そこでとった行動は、先輩記者が書いた原稿を書き写すこと。

私が最初に配属されたのは島根県の松江放送局でした。そこで、先輩記者が書いた原稿をひたすら丸写ししたのです。いったん帰宅した後、深夜に局に戻り、先輩たちが書いた原稿のつづりを引っ張り出し、一字一句を書き写していきました。

当時は、パソコンはおろかワープロもない時代でしたから、鉛筆でひたすら書き写すのです。島根県庁担当、島根県警担当、松江市役所担当などなど、それぞれの先輩が書いた原稿を書き写しながら、ニュース原稿の書き方を頭と腕に叩き込んでいったのです。