日産・西川CEOは“ゴーンの逆襲”に焦りか

今後、日産側、とくに西川廣人社長兼CEO(最高経営責任者)は防戦を余儀なくされるだろう。ゴーン氏が遅かれ早かれ保釈されることを西川氏は想定していたはずで、だからこそ、日本経済新聞など単独インタビューにも積極的に応じていた。その露出の多さと、語っていることの内容の薄さに、西川氏の焦りを感じたのは筆者だけだろうか。

ルノー日産グループからゴーン前会長を放逐したことで、日産側の目的は達成されているのかもしれない。ゴーン氏が今後、記者会見などでどんな発言をするかは分からないが、西川氏をターゲットに批判を展開してくることも十分に考えられる。

有価証券虚偽記載罪は会社の犯罪で、有価証券報告書の提出にあたっての代表者は西川氏である。しかも「取締役の報酬については、取締役会議長が、各取締役の報酬について定めた契約、業績、第三者による役員に関する報酬のベンチマーク結果を参考に、代表取締役と協議の上、決定する」と有価証券報告書に書かれており、ゴーン氏の退職後の報酬などについて西川氏も知っていた可能性が高い。それを知りながら、有価証券報告書に記載しなかったのは提出責任者である西川氏の責任ではないのか。

西川氏への責任追及が始まるかもしれない

にもかかわらず、西川氏が正義の味方のような顔をしてゴーン前会長を責め、自らは今後も経営に携わり続けるような姿勢を取っているのも解せない。

ゴーン氏は特別背任でも起訴されている。こちらがむしろ本命ということだろう。これまでの報道では、会社を私物化していたということを国民に強く印象付けている。強欲だったということについてはおそらく事実だったのだろう。

だが、それで特別背任に「有罪」になるかどうかは、話は別だ。すべて社内手続きを経て合法的に処理していたという主張がされた場合、それを突き崩していくのは簡単ではない。

司法の場で結論が出るまでにはまだまだ長い時間がかかる。初公判は2020年にずれ込みという見方も出ている。つまり、ゴーン氏がルノー日産の経営に戻ってくることはない。

今、ルノーのジャンドミニク・スナール会長も、ティエリー・ボロレCEOも、西川氏ら日産経営陣との対立は避けている。しかし、6月の株主総会が迫ってくれば話は別だろう。何せルノーは日産自動車の43.7%(2018年9月末現在)の株式を保有している。海外機関投資家も多く日産株を持っており、外国法人などを合わせた合計では62.7%に達している。

つまり、ルノーが外国人株主の納得する人事提案などを行えば、十分に可決される可能性が高いのだ。もしかすると西川氏への責任追及が始まることになるかもしれないのである。

磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。
(写真=AFP/時事通信フォト)
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