どうすれば幸せになれるのか。哲学者の小川仁志氏は「幸せの基準となる哲学は4つに整理できる。大事なのは、自分の価値基準を持っているかどうか。たとえばサッカーの三浦知良選手は世界最年長のプロ選手として試合を楽しんでいる。これはタオの思想だ」という――。
群馬戦の前半、自身の持つ最年長得点記録を更新する先制ゴールを決め、喜ぶ横浜Cの三浦知良(中央)=2017年03月12日、ニッパツ(写真=時事通信フォト)

もっと稼げるのに突然引退する人の心模様

あなたにとって幸せとは?

もしあなたが何かのスター選手だとします。まだやれるけれど、納得のいくプレーができそうにない場合、引退しますか? それともできる範囲で現役を続行しますか? 実はこれは幸せの基準に関する問いなのです。

価値観が多様化する中、いったい何が幸せなのかということさえ明確にはいえない時代になってきています。一昔前なら、日本人にとっての幸せは経済的に豊かになることでした。個人も社会もそれを幸せの基準にして、効用を拡大してきたのです。

でも、今はどうでしょう? もっと稼げるのにと思うような人が突然引退したり、むしろ人のために尽くすような人生を送り始めたりします。バブル期のような毎日ドキドキハラハラするような生活ではなく、落ち着いて心静かに生きる日常を選ぶ若者も増えています。

もちろん起業して一発当てようというような人もたくさんいますが、他方でそれとは対極的な人生を好む人が同じ社会に共存している。こうした状況はこれまでの日本にはなかったことです。何しろみんな同じというのが日本の伝統ですから。

そこで、幸せの基準について哲学の英知を参照しながら考えてみたいと思います。歴史上、いったいどんな幸せに関する考え方が提起されてきたのか……。