「デュアラー(二拠点生活者)」という言葉が注目を集めている。哲学者の小川仁志氏は「私も田舎に住みながら都会に働きに出ている。二拠点生活をすることで二項対立に縛られない価値観を持つことができる。みんな田舎に住んでみるべきだ」という――。

なぜ二重生活がブームなのか

今、都会にベースを置きながらも、時々田舎に住むというライフスタイルが流行りつつあるようです。そうした二重生活を送る人たちのことを「デュアラー」というそうです。二重を意味する英語dualから来ています。

今回はそんなデュアラーについて、思想的に意義を読み解くとともに、こうしたムーブメントが今後どうなっていくのか考えてみたいと思います。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/pixdeluxe)

そもそも私がこのムーブメントに興味を持ったのは、自分自身が田舎に住んでいるからです。私の場合、都会をベースにして時々田舎に来ているのではなく、逆に田舎に定住して、時々都会に出ていくというライフスタイルをとっています。

もともと私も都会に住んでいました。京都出身で関西育ちなのですが、大学を出てからはおしゃれな商社マンに憧れて東京に行きました。横浜に寮があったので、そこに住んでいました。その後台北、北京、東京と東アジアの主要な首都を制覇? し、30代前半は市役所に転職したため名古屋で働いていました。

市役所で働きながら大学院に通い、博士までとった私は、36歳の時に山口に移り住んだのです。そこに哲学のポストがあったからですが、それは家族と共に田舎に移住することを意味していました。何より、哲学のポストは希少ですし、私の経歴からするとほぼそれは山口への永住さえ意味していました。

私が田舎にこだわる理由

しかし、躊躇はまったくありませんでした。なぜなら、田舎暮らしに憧れていたからです。ずっと都会に住んでいて、息苦しさを感じていたのでしょう。今は新幹線でも飛行機でも、あっという間に東京に行ける時代です。本州の端っこであろうが、何百キロ離れていようが、少しも遠いとは感じませんでした。

その後メディアにも出だして、取材や打ち合わせなどで頻繁に東京、大阪、名古屋などの都会に行く生活になりましたが、それでも都会に住もうと思ったことは一度もありません。「どうして都会に移らないんですか?」とよく尋ねられるのですが、都会に住むことがいいとは思っていないのです。

その気になれば、今の大学も博多あたりから通うことは可能です。現にそういう同僚もいます。都会のライフスタイルを味わえるからです。でも、私の感覚だと、せっかく田舎に仕事があるのに、無理に都会をベースにして、わざわざ田舎に休みに行くのはもったいないような気がするのです。都会にはいくらでも仕事で行く用事があります。それなら、普段はのんびり田舎で過ごしていたほうがいいのではないかと思うのです。