おもむろに取り出した「中性脂肪」のパンフレット

不安げだった患者に笑みがこぼれた(写真提供=毎日放送)

大学病院に勤めて40年。加藤のもとには、評判を聞きつけた患者が全国から訪れる。この日、青森県からやってきたのは患者の鈴木孝子さん。二人の子供を持つ母親でもある。彼女の左目奥の脳の血管には、大小2つのコブがあった。大きい方は4mmの脳動脈瘤。いつ破裂しても、おかしくない状態と知り鈴木さんは表情を曇らせる。

すると加藤はおもむろに「中性脂肪」のパンフレットを手に取り、傍らに付き添う夫の腹を見ながら、こう話しかけた。

【加藤】「中性脂肪どうですか、お父さん。次はあなたですね」

【鈴木さん】「本当に! あはははは」

不安げだった鈴木さんに笑みがこぼれ、診察室は一気にリラックスムードに変わった。加藤の治療はもう始まっているのだ。

1mmに満たない血管を動脈瘤から剝がす

鈴木さんの手術がスタートした。髪の生え際を切開し、4cm四方の穴から目の奥にある動脈瘤を目指す。

【加藤】「ハサミちょうだい」

器具を医師に渡す「器械出し」をする看護師の手がおぼつかない。

【加藤】「慌てなくていいから、ゆっくりやって……ちょっと怖いんだけど。慌てると危ないわ」

加藤は容赦なく器械出しの看護師を交代させた。全ては患者のため。そこに迷いは一切ない。

予想通り大小2つのコブを確認したものの、新たな問題が見つかった。大きい方のコブに別の血管が癒着していたのだ。その血管を一緒にクリップすると血流が止まり、何らかの障害が生まれる可能性がある。1mmに満たない細さの血管を、動脈瘤から少しずつ慎重に剝がしていった。

患部の状況によって使い分けるため、加藤は130種類を超えるチタン製のクリップを用意している。軽くて硬くさびないチタンは、体内に残したままにできるのが特徴だ。コブが破裂しないように、ゆっくり慎重にクリップを閉じていき……手術成功だ。

手術から1週間。鈴木さんは穏やかな表情で、青森で帰りを待ちわびる子供たちのもとに帰っていった。