女性脳外科医では世界一と言われる手術数を誇る医師・加藤庸子氏は、66歳の現在も週3回の手術をこなし、年間20カ国で技術指導をしている。一方、病院では、散らかったゴミを片付け、患者たちとのラジオ体操を欠かさない。「医学史上最高の女性医師の一人」と言われる加藤氏の仕事風景に密着した――。
脳神経外科医の加藤庸子氏(写真提供=毎日放送)

くも膜下出血を防ぐ「クリッピング術」のスペシャリスト

毎年10万人を超える人が命を落とす脳卒中。特に死亡率が高いのが「くも膜下出血」だ。愛知県の藤田医科大学ばんたね病院の脳神経外科医、加藤庸子は、くも膜下出血の原因となる、脳の血管にできた“こぶ”を特殊なクリップで挟み、破裂を未然に防ぐ「クリッピング術」のスペシャリストとして世界的に注目されている。

2006年に大学病院の脳神経外科において日本初の女性教授となり、2012年には日本脳神経外科学会で初の女性理事に選出。66歳の現在も週3回以上の手術をこなしながら、後進の育成にも力を注いでいる。1月20日放送のドキュメンタリー番組「情熱大陸」では、体力的にも精神的にも過酷な脳外科の世界で、患者の信頼を勝ち得てきた敏腕女性医師の生き方に迫った。

患者たちとのラジオ体操を欠かさない

ユーモアもあれば、辛辣さも併せ持つ加藤。この日、手術前に突然話しかけた相手は、研修医だった。

【加藤】「あなたは不正入学してない?」

【研修医】「してないです(笑)」

【加藤】「女の方が頭がいいからまともにやったら8割女になっちゃうよね。でも良い医者になるかどうかはまた別の話なんだよね。難しいところだけど……」

医師たちの控室では散らかったゴミを片付けて回る(写真提供=毎日放送)

まるで母親のようであり教育者のようでもある。医師たちの控室では散らかったごみを片付けて回り、患者たちとは毎日ラジオ体操を欠かさない。いつからか加藤は「ゴッドマザー」と呼ばれていた。

これまでに手掛けた手術は約3000例。女性の脳神経外科医として世界一の実績だ。アジア脳神経外科学会会長や世界脳神経外科連盟役員を歴任。海外での評価も高く、この道の世界的権威として他ならない存在だ。

【世界脳神経外科連盟 マジド・サミイ元会長】「彼女は医学史上最高の女性医師の1人ですよ」