安定した収入、相応の蓄えというものがいかに人の心を安定させるか。過去の“年収グラフ”の凹凸が激しい筆者には、給料激減にまだ“慣れて”いない多くの企業の正社員の方々が正直、羨ましい。
ただ、安定は無関心と紙一重だ。「100年に一度の危機」「正社員とて安泰ではない」と繰り返し耳にしてもどこか他人事で、わが身に引き寄せて真面目に考えられる人は意外に少なそう。
好きなことにお金をつぎ込む一方、手近なところで節約して気を紛らわす。
「不安です」と口では言いつつ、家計の贅肉を洗い出すまでには至らない――そんなシニカルな先入観を抱いたまま、筆者は取材に臨んだ。
おばあちゃんが陰でバックアップしてる?
「うわーっ、それウチやわあ……」
そう言って絶句した奥山憲治さん(仮名、40歳)は、神戸市に本拠を置く中堅商社の営業マン。小売業勤務の妻・春恵さん(仮名、44歳)と共働きだ。
年収1000万円台の家庭は、親の援助もあって錯覚を起こし、生活水準を下げようとしない……などと筆者が何気なく漏らした講釈に、世帯収入1100万円の奥山夫妻はビビッときたご様子。
兵庫県内の静かな住宅地に立つ瀟洒な5LDK。近隣には著名人の住居も多い。「娘をちょっとしたとこから嫁に出したいという見栄と、親と同居する広さを考えて」(憲治さん)、3年半前に5000万円で購入。月々18万円、35年ローンで頑張っている。
「ウチの部署はお上相手だから、不況を実感するのはまだ先だろうけど、自動車に絡む部署はやはりドーンと下がってて、雰囲気は暗い」(憲治さん)
ウチは貧乏、を連発する奥山夫妻。月々の食費が12万~13万円と、生活費のほとんどを占める。朝は忙しいからパンだけ。夫婦で10年もののアウディに乗り、保育所に長女を預けて出勤。憲治さんの昼食代は800円がメド。春恵さんは前日に自分でつくった弁当を「めっちゃ質素に食べてます」という。
「夜は一緒。外食はあまり好きじゃないけど、お互い残業で夜8時過ぎに帰宅したら、つくる気力もない」(憲治さん)
自然とピザや寿司を取ったり、ファミレスに行くことが多くなった。回数を減らせないから単価は落とす。とはいえ、
「一人1000円ちょっとですまそうとしても、セットとか飲み物で結局1500~1600円。最近は子供も一人分だから、4000円は軽く超える。たまに土、日に寄るマクドナルドでも、子供向けセットなどなどで1000円ではまず収まらない」(春恵さん)