乾きの時代――といわれる。人の心が殺伐としてきているだけではなく、身体自体にも潤いがなくなってきている。目のドライアイだけではなく、髪も肌も乾き、ついに口の中も――。

口腔内が乾燥する病気を「口腔乾燥症」「ドライマウス」という。唾液の量の減少と質の異常をきたす疾患、つまり口の中が乾いてさまざまな不快症状を引き起こし、QOL(生活の質)を極めて悪くする病気である。

ドライマウスに悩む人は、欧米の疫学調査によると、人口の25%という報告がある。それでいくと日本ではドライマウスに悩む人は約3000万人になる。が、一般的には、ドライアイの800万人並みと推測されている。

軽症では「口の中の不快感」「口の中の乾燥感」を訴え、これが重症になると「舌が痛い」「口臭がひどい」といった訴えも加わってくる。

もちろん、口の中の乾燥には唾液が大きく関わっている。人間は1日に1.5~2リットルの唾液を分泌している。

唾液は単なる水分ではなく、体を良い状態に保とうとする恒常性に働く重要な物質を多く含んでいる。抗菌物質、消化酵素、粘膜を保護するムチン、成長因子などである。

その重要な唾液が減少すると、前述の症状のみならず、風邪症候群に代表される感染症にもかかりやすくなる。

75歳以上の高齢者の死因の第1位は「誤嚥(ごえん)性肺炎」。唾液の減少や筋力の低下によって食べ物をスムーズに飲み込めず、誤って気道に食べ物が入り、それがもとで亡くなってしまう。

死にも結びつくドライマウスの原因はさまざま――。

「糖尿病」「腎不全」「放射線障害」「脳血管障害」「更年期障害」「シェーグレン症候群」「薬の副作用」「老化」「筋力の低下」「ストレス」など。単独原因で起こることもあれば、複合して起こることもある。

最も多いのは、薬の副作用といわれている。“服薬大国・ニッポン”では、欧米諸国の40倍も薬の服用量が多い。なかには、不必要な薬を飲んでいる人もいる。副作用なのかどうか、この点はしっかりとチェックする必要がある。

このほか、現代病の現代病たるところとして、“やわらかいものイコール美味しい”という図式。結果、よく噛むと唾液の分泌が増えるにもかかわらず、噛まない人が多いので唾液が少なく、乾いてしまう。

ドライマウスは全身疾患に結びつくので、口の乾きが気になる場合は、ドライマウス外来のある病医院、歯科病医院を受診すべきである。

 

食生活のワンポイント

ドライマウスの原因を追求し、薬の副作用など原因が特定されたら、それを排除するようにする。心配な原因ではない場合は、以下の4点を行うことで改善される。もちろん、普段から行うと、予防にも結びつく。

(1)毎日の食事に噛みごたえのあるものを選ぶ!
歯ごたえのあるものにはフランスパン、皮つきりんご、さきいか、昆布、生キャベツ、たくあん、ビーフステーキ、ごぼう、玄米など。よく噛むようになるので唾液が出る。

(2)静かにしているときはガムを噛む!
唾液が出てくる以外に、咀嚼筋(そしやく)もきたえられる。

(3)禁煙する!
 タバコは交感神経を優位にしてしまうため、唾液の分泌が抑えられてしまう、という考えを示している専門医が多い。

(4)酸味のある食べ物を食べる!
梅干しなど酸味のあるものは唾液の分泌を促進する。ただし、重症の人には刺激が強すぎるので、注意が必要である。

このほかに、室内の湿度を50%程度に保ったり、こまめに水分を補給するのも大事である。