一方で、NRPの実行と同時並行で、今度は米国新工場建設や最後発での中国進出、水面下での電気自動車(EV)開発など長期的な成長戦略にも踏み込み、実行していた。

とりわけEVに関しては、予算管理が厳しく制限される正規の予算からではなくゴーン氏が特別に自分の裁量で使える枠から資金が出動されたといわれる。しかしこの戦略商品と位置づけたEV事業こそ、計画値と現実の乖離が特にひどかった。

世界初の量産型EVの「リーフ」が発売されたのは10年12月。翌11年6月に発表した中期経営計画で、16年度までに仏ルノーと合わせ、EVを累計150万台販売するとゴーン氏はぶち上げる。実際、現在の累計販売は約50万台(ルノー、日産、三菱3社合計。現時点での世界トップ)。

「150万台を信じている人間は、日産にはいない」と、13年秋にある役員は笑いながら話した。「時間の経過とともに、ゴーンさんとどう接すればいいのか、みな学習していった」(幹部社員)。気がつけば、ゴーン氏は“裸の王様”と化していた。

自動車業界はいま、大きな節目を迎えている。世界最大市場になった中国では、19年1月から環境規制であるNEV(新エネルギー車)規制がスタートする。EVの成功は間違いなく今後の世界競争で必要になる。

日産はフォルクスワーゲンやトヨタに先行し、中国市場に18年9月に戦略商品となるEVを発売。しかも、販売は好調なスタートを切った。ゴーン会長逮捕は、これに冷や水を浴びせる形になってしまった。

会見で1人矢面に立った西川社長。会社をいかに透明性高く変貌させ、世界市場で勝ち抜く組織につくりあげるのか。その手腕が問われている。

(撮影=大槻純一)
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