目の当たりにした「異世界」の光景

議員事務所で働きはじめると、ほかの議員事務所の秘書も含めて知り合いが増えました。そこで見聞きした光景は、それまで企業や大学など別の業界にいた私から見れば、世間一般の常識から遠くかけ離れた異常なものでした。国会議員の事務所には、「時代錯誤」や「異世界」という言葉がぴったりです。

たとえば、「土下座」という行為は、時代劇やお笑い番組のシーンでしか見たことがないものですが、議員秘書の中にはやむをえず土下座する人もいます。実際、私も公道の真ん中で議員秘書が後援会幹部に土下座をしている現場を見たことがあります。

政策担当秘書に面と向かって「秘書ってのは下僕なんだよ」と言い放った衆議院議員もいれば、運転する秘書の頭を拳骨で殴る男性代議士、あるいは週末だろうと休暇だろうと関係なく、自分の子どもの学校や塾、スイミングスクールの送迎を公設秘書にさせている女性参議院議員、公設秘書に国から支給される給与をピンハネする議員もいまだにいますし、給与からの政治献金を強要する議員もけっこういます。

パワハラだけでなく、信じられないようなセクハラやモラハラをする国会議員も数多くいました。中には、同じ事務所内の秘書同士の連絡先交換を禁止したり(秘書たちが結託するのを防ぐため)、朝出勤してきた秘書全員を予告なしにクビにしたりした議員もいます。立場の弱い私設秘書を、タダ同然で長時間働かせている議員もいました。

もちろん、そういった非常識な議員は一部に限られており、一方では、政治的な能力が素晴らしいだけでなく、人格的にも尊敬すべき国会議員の先生方もいます。しかし、私が見聞した国会議員による“秘書いじめ”の実例はこれだけではありません。おそらく秘書たちに情報提供を呼びかけたら、それだけで本1冊分になると思われます。議員秘書は、労働基準法や労働安全衛生法などの労働法制による保護が十分ではありません。他の職種と比べて、被雇用者としての立場が圧倒的に弱いのです。

以上のような状況から、私は議員秘書が抱えているストレスはとても大きいに違いないと仮説を立てました。その一方で、このようなストレスフルな職場であっても、前向きに頑張っている議員秘書と、逆にストレスに押しつぶされそうな秘書がいることに気づきました。