ベテラン議員秘書へのインタビュー
さらに、インタビュー調査を進めていくと、彼らがどのようなストレスと対峙し、それをどう克服してきたのかがわかってきました。
議員秘書Aさんは50代の男性で、政策担当秘書歴15年以上のベテランです。Aさんは、大学を卒業後に民間企業に就職し、30代に入ったころ、国会議員政策担当秘書資格試験の存在を知り、もともと政治や政策に関心があったことから受験し、合格しました。さらにAさんの場合は、大学院にも進学し、政策関係の修士号も取得しています。
Aさんが民間企業の会社員から議員秘書に転身したのは、ある国会議員が合格者名簿を見て、Aさんにコンタクトしてきたことから始まります。その国会議員は、Aさんに政策立案だけに集中してやってほしいということでした。議員が尊敬できる人物であり、また実際の政策立案にたずさわれることがAさんにとって大きなモチベーションになりました。
議員秘書に転身した当初は、仕事もやりがいがあり、日々充実していたそうです。ところが、その議員が落選したことで状況は一変してしまいます。Aさんはほかの議員事務所への転職を余儀なくされ、それ以降、複数の議員の政策担当秘書を務めています。
他事務所へ転職したAさんの大きな悩みは、「政策立案能力を生かす仕事がなかなかできない」ということでした。これは、議員の考え方によって大きく変わりますが、大抵の国会議員が政策担当秘書に求めるのは政策立案能力ではなく、資金集めや後援会活動など、お金と票に直接つながるような能力です。
たとえば、パーティー券売りのノルマを課せられて売り歩いた挙げ句、「まだできないのか!」と議員からプレッシャーをかけられたりするのです。Aさんのように政策立案にたずさわりたいという思いでこの世界に入った議員秘書にとっては、そのこと自体が大きなストレスとなりました。
Aさんは、議員秘書になって4、5年が経過したころ、この仕事は一生やる仕事ではないと感じたそうです。その理由として、議員の考え方ひとつで自分の仕事内容が決まってしまう、つまり自分でコントロールできないことを挙げています。
「人間として器の大きい議員であれば、秘書の持ち味を活かしてくれようとするので、秘書もそれに応えて自分の専門性や能力を活かすことができる。でも、そんなことを考えない議員の秘書になれば、本当に毎日苦痛でしかないことになってしまう。そして、9割の議員は秘書の能力を活かすことなど考えず、ただ将棋の駒のように秘書を使うだけ。たまたま優れた議員につけたとしても、その議員もいつかは落選してしまうし、引退してしまうのだから、一生の仕事とするのは本当に難しいと思う」