製作費300万円の映画『カメラを止めるな!』が快進撃を続けています。84席のレイトショーから始まった公開は、全国150館に拡大。異例ずくめのヒットの裏側には何があったのでしょうか。ライターの稲田豊史さんは「『この世界の片隅に』と同じく、観客に製作者の熱意が伝わる仕掛けがあった」と分析します――。
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『カメラを止めるな!』

■製作国:日本/配給:アスミック・エース、ENBUゼミナール/公開:2018年6月23日
■2018年8月4日~5日の観客動員数:第10位(興行通信社調べ)

快進撃は「84席のミニシアター」から始まった

この連載のテーマは「週末1位映画」ですが、 今回は【番外編】として先週末10位の『カメラを止めるな!』を取り上げます。すべてが異例ずくめで、ぜひ紹介したい作品だからです。

本作は製作費300万円のインディーズ作品です。役者は全員ほぼ無名、監督の上田慎一郎さんにとっても初の劇場用長編映画で、製作母体は監督・俳優養成スクールである「ENBUゼミナール」です。

『カメラを止めるな!』の導入は「山奥の廃墟でゾンビものの自主映画を撮影している撮影隊に、本物のゾンビが襲いかかる」というもの。どこかで聞いたことのある設定ではありますが、その後の展開は意外性に富んでいます。緻密に考え尽くされた脚本や、端役のひとりに至るまで丁寧に描き込まれた登場人物、ラストに訪れる驚愕のカタルシスは、多くの鑑賞者の胸を打ちました。

本作の初お目見えは2017年11月。劇場は新宿にある84席のミニシアター「K's cinema」で、公開は6日間限定。すべてレイトショーでした。ところが、公開されるやまたたく間に観客の絶賛を集め、チケットは連日完売。ここから一般公開を望む声があがり、2018年6月23日から同館と池袋シネマ・ロサの2館での上映が決定しました。

指原莉乃、斎藤工、生田斗真、伊集院光……各氏が絶賛

一般公開後も快進撃が続きました。劇場では満席が続いたほか、指原莉乃さん、斎藤工さん、生田斗真さん、伊集院光さんといった著名人が絶賛。口コミが広がり、7月23日からはシネコン最大手のTOHOシネマズを含む全国40館での上映がスタートしました。その結果、公開7週目にして観客動員数ベスト10にランク入りしたわけです。

勢いはまだ止まっていません。公開館数は増え続けており、先ごろ全国150館での公開も決定しました。映画業界では「公開館数は初日が一番多く、その後はどんどん減っていく」というのが普通なので、異例ずくめの事態です。

▼ヒットの要因その1:「内容がわからない」で鑑賞欲を煽られる

『カメラを止めるな!』は傑作と評価されていますし、筆者もそう思います。ただ、傑作だからといって必ずヒットするとは限りません。本作が異例のヒットとなったのには、大まかに4つの要因があると考えられます。そのひとつが、作品の「構造」です。

※以下、極力ネタバレを避けながら解説しますが、作品未見者で少しでも情報を入れたくない方は、読むのをご遠慮ください。