アメコミヒーロー映画『デッドプール2』が、『名探偵コナン』のV8を阻止して、「週末1位映画」となりました。本作の最大の特徴は「第四の壁の破壊」。主人公はまるでホストのように、あらゆる場面で観客に語りかけてきます。こうした手法は『ハウス・オブ・カード』や『コンフィデンスマンJP』などの話題作でも採用されています。なぜなのでしょうか――。
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『デッドプール2』

■製作国:アメリカ/配給:20世紀フォックス映画/公開:2018年6月1日
■2018年6月2日~3日の観客動員数:第1位(興行通信社調べ)

マニアックな作品に若者が押し寄せた謎

6月1日より公開されたコメディタッチのアメコミヒーロー映画『デッドプール2』が、土日2日間で動員23万9000人、興収3億7500万円を記録して第1位となりました。それまで7週連続1位という怒涛の快進撃を続けていた『名探偵コナン ゼロの執行人』のV8を阻止した形です。公開日の金曜を含めた週末3日間では動員37万1955人、興収5億3671万3800円。初動の好調からして、前作『デッドプール』(2016年)の20.4億円を上回る最終興収が見込まれています。

主人公のデッドプールは末期ガンと診断された元傭兵で、ガンを治すための人体実験で人間離れした治癒能力を持つに至ったヒーローです。そんなデッドプールの誕生を描いた『デッドプール』の続編である本作は、新たな仲間とチームを組んで敵に挑む物語。大掛かりなCG描写だけでなく、打撃の痛みが伝わってくる迫力の殺陣も楽しめる、一級のエンタテインメント作品です。

ただし、本作にはマニアックな映画ネタ、日本人にはなじみの薄いアメリカ芸能ネタ、80年代のヒット洋楽などがふんだんに盛り込まれています。また、人体がちぎれ飛ぶ残酷な描写や下品な下ネタも含まれていることから、観客の中心は「40代以上の男性映画オタク」かと思いきや、初週末の来場客は多くが10代後半から20代の若者。女性客の姿も目立ちました。一体なぜでしょうか。

「第四の壁」を破壊するデッドプール

『デッドプール2』の最大の特徴は「第四の壁の破壊」です。「第四の壁」とは、元々は演劇の概念で、舞台と観客を隔てる透明な壁のこと。舞台背面に一つ目の壁、舞台の両脇に二つ目と三つ目の壁、そして舞台正面と客席の間に四つ目の壁がある、という見立てです。

通常、演者はこの「第四の壁」を越えられません。演者はフィクション世界の住人として振る舞うため、観客は「いないもの」として物語が進行するからです。

ところが、演者が観客の存在を意識し、観客がいることを前提に舞台上でふるまうことがあります。これが「第四の壁の破壊」です。最もポピュラーな方法は演者が観客に語りかけるというものですが、その他にも「現実世界の事象をセリフに織り込む」「舞台監督に苦言を呈す」「演じている役ではなく役者個人として発言する」というものもあります。

『デッドプール2』では、デッドプールがあらゆる場面で観客に語りかけてきます。愚痴をこぼし、毒舌を吐き、解説を加え、冗談を言い、「さあ、ここで1曲」と言えばBGMが流れます。まるで、デッドプール自身がこの映画のホストであり、監督をしているように振る舞うのです。前作でもこの手法は取られていましたが、今作ではそれがより激しく、より暴走しています。