また、主人公のデッドプールは、たびたび現実世界の映画作品や俳優といった固有名詞を口にします。珍しい手法ではありませんが、その頻度と突っ込みの鋭さは他作品を圧倒しています。なかでも必見は、「デッドプール役の俳優ライアン・レイノルズがかつて『グリーン・ランタン』というアメコミ映画の主役を演じたが、映画は酷評の嵐で興行的にも大コケした」ことを踏まえた自虐シーン。まさしく第四の壁を派手にぶっ壊しているわけです。

(c) 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.

『古畑任三郎』『コンフィデンスマンJP』も同じ

「第四の壁の破壊」は映画やテレビの世界でも古くから使われてきました。有名なところでは前作『デッドプール』でもパロディとして使われたマシュー・ブロデリック主演の青春映画『フェリスはある朝突然に』(1986年)、マーティン・スコセッシ監督のギャング映画『グッドフェローズ』(1990年)など。日本の作品でも、伊丹十三監督のグルメ映画『タンポポ』(1985年)や1994年に第一シーズンが放映されたドラマ『古畑任三郎』がよく知られています。田村正和演じる古畑が番組冒頭で毎回観客に語りかけていたのを覚えている人は多いでしょう。

またネットフリックス製作の海外ドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』(2013年~)での演出も話題を呼びました。ケビン・スペイシー演じる下院議員のフランクが大統領を目指すこの物語では、フランクが劇中いきなりカメラのほうを向き、観客に自分の考えを語るのです。

スマートフォンとSNSの普及が影響か

現在、フジテレビ「月9」枠で放映中のドラマ『コンフィデンスマンJP』でも、「第四の壁の破壊」が使われています。同作ではレギュラーメンバー(長澤まさみ、東出昌大、小日向文世)のいずれかが冒頭で観客に向かって口上を述べ、最後に「コンフィデンスマンの世界へようこそ」と結んで物語が始まるのです。

ただ、「第四の壁の破壊」は、虚構への没頭を妨げる手法です。作品世界に没頭したいタイプの観客にとって、登場人物がやすやすと自分に話しかけてきたり、現実世界の出来事をカジュアルにしゃべったりするのは興ざめだ、という人もいるでしょう。

古くからある手法でありながら、なぜこの手法が相次いで採用され、大きな反響を得ているのでしょうか。私は、スマートフォンとSNSの普及が影響しているのではないか、と考えています。