ファミリー客やディズニー好きの女性客ばかりではない
『プーと大人になった僕』が2週連続の1位となりました。同作のモチーフになっている『くまのプーさん』は、A・A・ミルンが1926年に発表した児童小説ですが、多くの人にとって馴染み深いのは、それを原作に1960年代以降製作されたディズニーアニメ版ではないでしょうか。今回の映画版は、プーの親友である人間の少年、クリストファー・ロビン(ユアン・マクレガー)が成長して大人になった後の物語です。
知名度の高いディズニーアニメの実写映画化としては、『美女と野獣』(2017年、興収124億円)、『アリス・イン・ワンダーランド』(2010年、興収118億円)などのメガヒット作が思い浮かびますが、『プーと大人になった僕』は2週目で興収12億円超と、そこまでの勢いはありません。
ただ、筆者が意外に感じた点がありました。それは、複数の映画情報サイトが報じている「30~40代の男性も劇場に足を運んでいる」という事実です。「映画.com」では「劇中の主人公と同世代の30代から40代の働く男性の来場も増えてきているという」、「映画ナビ」では「劇中のクリストファー・ロビン世代の30代-40代の働く男性の来場も増えてきている」と書かれているのです。
アニメ版『くまのプーさん』といえばファンタジーな世界観が特徴ですし、映画本編にはぬいぐるみのような質感のプーたちがCGで愛らしく描かれています。となれば当然、小さな子どもを連れたファミリー客やディズニー好きの女性客ばかりではと考えがちですが、蓋を開けてみると必ずしもそうではなかったのです。
本作はまごうことなき「サラリーマンはつらいよ映画」
なぜ、30~40代の男性客が来場するのでしょう。そのヒントは予告編にありました。多くの観客は予告編を観て観に行く映画を決めるものですが、『プーと大人になった僕』の予告編は、「仕事が忙しくて家庭をおざなりにしていた中年の男が、純粋無垢なプーに再会することによって改心し、家庭を大事にするに至る」話だということが、はっきりわかる作りになっています。この時点で、実際に仕事と家庭の両立に悩んでいる30~40代男性のアンテナにひっかかったと推察されます。
実際に映画を観てみると、時代設定は第二次世界大戦後のイギリスですが、クリストファーが取り巻かれている状況は、現代日本の30~40代男性サラリーマンとなんら変わりません。業績が悪い部署の管理職であるクリストファーは社長から厳しく経費削減ミッションを課せられ、休日返上でプランづくりに没頭。おかげで妻や娘の信頼を失ってしまってしまうのです。その意味で、本作はまごうことなき「サラリーマンはつらいよ映画」。既婚・子持ちの30~40代男性は、ここに思い切り共感します。