『トレイン・スポッティング』の主人公が中年になった

クリストファーを演じたユアン・マクレガーというキャスティングも、30~40代男性のハートを掴みました。

彼が日本で最初に存在感を見せつけたのは、ドラッグ中毒の無軌道な青年を演じた『トレイン・スポッティング』(1996年)です。公開当時、同作はミニシアターでの上映作品でしたが、大学生の若者を中心にスマッシュヒットしました。その大学生は現在、40代前半です。

また、1999年から2005年にかけての『スター・ウォーズ』新三部作で、マクレガーは主役格のジェダイ騎士、オビ=ワン・ケノービを演じており、現在の30代男性が10~20代の時にリーチしました。

つまり、かつては不良のヤンチャ坊主として大暴れし(『トレイン・スポッティング』)、その後は堂々とした頼れる騎士として大活躍(『スター・ウォーズ』)したが、現在は"家庭持ちの疲れた中年"。この点も、30~40代男性がマクレガーに親近感を持ちやすい構造になっています。ちなみに、彼は1971年生まれの47歳。30~40代男性とまさに同世代です。

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「"何もしない"は最高の何かにつながる」

サラリーマンとして、夫として、父親として、苦境に立たされたクリストファーは、ひょんなことからプーと再会します。会社からのプレッシャーで神経をキリキリさせ常に焦燥感にかられているクリストファーとは対象的に、プーは昔と同じ、のんびりマイペース。経費削減案を記した書類のカバンを後生大事にするクリストファーに向かって、「それって風船より大切なもの?」などと言います。

そんなプーや少年時代のクリストファーが唱え、劇中で幾度となく登場する最重要キーワードが、「"何もしない"は最高の何かにつながる」です。ちょっと哲学的な響きもあるこの言葉ですが、原作の『くまのプーさん』がお好きな方なら、有名な「"なにもしない"をしている」を思い浮かべたかもしれません。「"なにもしない"をしている」は、余白やプロセスの重要性を示したプーの名言です。

そんな原作『くまのプーさん』については、複数の識者が中国の道教(タオイズム)との共通性を指摘しています。タオイズムには「行(おこな)ったり、引き起こしたり、作ったりしない」という「無為(ウーウェイ)」と考え方があります。筆者なりに言い換えると、「一生懸命がんばりすぎると混乱するから、考えすぎないで自然に従えば、いい結果はおのずとやってくる」「ものごとはひとりでに、起こるべくして起こるものだから、無理に状況に介入してはいけない」といったニュアンス。これは「"何もしない"は最高の何かにつながる」にそっくりです。