著名経営者の「マッチョイズム」には、もうウンザリ

一方、そんなプーのような考え方、およびタオイズムとは真っ向から対立する主張が、現在30~40代を中心とした著名実業家たちによる、マッチョイズムに満ちた仕事論です。彼らが唱えるのは「"何もしない"と、何も生まれない」。完全に「"何もしない"は最高の何かにつながる」の逆です。

彼らは、「所属する会社に運命を委ねるのはダサい」と言い切り、「個人をブランド化しろ、興味のあることを片っ端からやれ」と檄を飛ばし、「血を流せ、汗をかけ」と煽ります。社会のシステムが腐っているならシステムごと作り変えろと叫び、スピードと量を両立させるんだと尻を叩き、非効率を徹底して排除しようとします。未来のためのTo Doリストを作らせ、「すぐやれ、今すぐだ!」と急き立てます。SNSを活用するのはいいとしても、「炎上を恐れるな」とまでプレッシャーをかける人もいます。

「切り拓け、道を作れ、とにかく動け。そうしないと生き残れないぞ!」。彼らのそんな言葉は毎日のようにSNS上でシェアされていますし、それらが載っている雑誌や書籍の広告も盛んです。視界に入らない日はないといってもいいでしょう。

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しかし、筆者を含めた30~40代男性の中には、「正直、そんなノリにはついていけない。もうたくさんだ……」と辟易している人も結構な数いるのではないでしょうか。すべての人間がそこまでアグレッシブでパワフルなわけではないからです。

30~40代男性の多くは、毎日限界まで働きづめで、個人のブランド化や社会システムの変革などという高邁な理想について、考える時間も心の余裕もありません。家のローン、子供の教育、妻のケア、親の介護で頭はいっぱい。税金は上がる一方だし、老後には不安しかありません。ものすごく疲弊しているのです。

くまのプーさんは「何もしない」を肯定する

また、30~40代の多くは、バブル崩壊後の就職氷河期を経験した「ロスジェネ」です。彼らの想いを代弁すると、以下のようになるでしょう。

「死ぬ思いで受験勉強していい大学に入ったのに、就職活動は大苦戦。やっと入れた会社で10年も20年も身を粉にして働いてきた。にもかかわらず、今になって"会社に期待するのはダサい"だなんて、そりゃないよ。今さら個人の能力で生き残れとか言われても……」

でも、彼らはそんな内なる声を決して口に出しません。否、出せません。アグレッシブでパワフルなマッチョたちから、より一層バカにされるからです。そんなとき、『プーと大人になった僕』の「"何もしない"は最高の何かにつながる」は、救いの声として響きました。