ビジネスマッチョイズム旋風に対するささやかな抵抗

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「"何もしない"は最高の何かにつながる」はマッチョたちからのプレッシャーをことごとく受け流してくれます。既存のシステムを無理に変えなくていい。能力が備わっていないなら、無理にやろうとしなくていい。焦らなくてもいい。30~40代が密かにそうしたいと思っていた、しかしマッチョたちがバカにする「何もしない」を、プーは全肯定します。そして物語は、「"何もしない"は最高の何かにつながる」をきっちり体現する形で、最高のハッピーエンドを迎えるのです。

『プーと大人になった僕』の30~40代男性からの支持は、吹き荒れるビジネスマッチョイズム旋風に対する、彼らのささやかな抵抗です。同じ千数百円を払うなら、圧の強い啓発書で自分に気合を注入するより、小さなクマに優しい言葉をかけてもらいたい。この国のサイレントマジョリティである30~40代男性は、それほど疲れています。

映画には「マッチョなヒーローがパワフルに世界を変革する」以外の穏やかなエンディングの形も、あっていいはず。本作はそれを示しているのです。

稲田 豊史(いなだ・とよし)
編集者/ライター
1974年、愛知県生まれ。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年よりフリーランス。著書に『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)。編著に『ヤンキーマンガガイドブック』(DU BOOKS)、編集担当書籍に『押井言論 2012-2015』(押井守・著、サイゾー)など。
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