「37分間のワンカット」が壮大な前フリになっている

本作は冒頭から「37分間ワンカットのゾンビ映画」がいきなりはじまります。「ワンカット」というのは、1台のカメラを一度も止めずに回しっぱなしで撮影する手法のこと。少しでも役者がとちったり、カメラがまごついたりしたら、最初からやり直し。たいへん難易度の高い撮影です。普通の映画では、長いワンカットでもせいぜい数分ですし、10数分も撮ればそれだけで「珍しい」とされるので、37分というのは異例中の異例、というか無謀です。が、本作はそれにあえて挑戦しました(監督の弁によれば6テイクを重ねたそうです)。

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……という情報だけ事前に聞いている観客は多いのですが、それがすごいのだと思って観に行くと、その予想は完全に裏切られます。本当にすごいのは「そこ」ではありません。しかも、「37分間のワンカット映画」が、映画全体の壮大な「前フリ」になっているのです。

37分を経過して以降は前フリを「回収」していくターンに入り、ラストには予想もしない展開が待ち受けています。ただ、「回収」が何を意味するのかを未見者に説明してしまうとすべてが台無しになるので、鑑賞者が未見者に勧める時はどうしてもこんな感じになります。「何も説明できないんだけど、とにかく観て!」。

この「説明できないけど、とにかく観て!」が未見者の好奇心を煽り、鑑賞欲を刺激した側面は大いにあるでしょう。その言葉に刺激されて劇場に赴いた鑑賞者は「なるほどね」と合点し、別の未見者に「とにかく観て!」と言う。その連鎖が、口コミを広げたと考えられます。

▼ヒットの要因その2:従来の国内興行に対するアンチテーゼ

2つ目のヒット要因が、コアな映画ファンが慢性的に抱いていた映画業界への不満を、本作が痛快に解消したことです。彼らの多くは、日本の映画界に以下のような不信感を抱き、常々憂いています。

・ベストセラー原作ばかりが映画化され、企画のチャレンジ精神が乏しい
・人気タレントの固定ファン集客を当て込んだ安易なキャスティングにウンザリ
・多額の製作費・宣伝費をかけて大量露出させるわりには、似かよった内容の作品ばかり
・情報番組などで見どころシーンを流しすぎるため、見る前から内容の予想がついてしまう
・予告編のほうが明らかに本編より面白そう
・シネコンは超大作ばかりで、小品でだが良質な作品の上映機会が失われている

『カメラを止めるな!』はこれらすべてに対して、結果的に強烈なアンチテーゼをたたきつけ、しかもちゃんと結果(商業的成功)を残しました。原作なし、無名の役者、乏しい製作費と宣伝費、オリジナリティあふれる内容、事前に内容が予想できないワクワク感、予告編からは到底伝わらない展開、小規模公開からの館数拡大という偉業の達成――。不満だらけだった映画ファンはこの状況に歓喜し、喝采をもって留飲を下げたのです。

彼らは公開初期のインフルエンサーとして、話題拡散に一役も二役も買いました。皆さんの周囲でも、「映画に詳しい△△さんが、絶対観たほうがいいって言ってたよ!」といった話を聞いたのではないでしょうか。