▼ヒットの要因その3:同業者をザワつかせる傑作ぶり

『カメラを止めるな!』は、実際に映画製作に携わっている同業者や、映画に限らず表現活動でものづくりに関わっている、いわゆるクリエイターと呼ばれる人たちを大いに刺激しました。彼らのみぞおちにヒットしたのは、本作が二重の意味で証明した「お金がなくてもいいものは作れる」という事実です。

1つ目の意味は「予算たった300万円なのに、アイデア次第でこんなにおもしろい映画が作れる」ということ。もうひとつは、(詳細は割愛しますが)映画の展開自体にそういうメッセージが、図抜けた説得力とともに込められているということです。

日本の映画製作環境は非常に厳しいものがあり、予算不足とスタッフの過酷労働は慢性的な問題となっています。日本の多くの映画製作者たちはそんな苦しい状況下、「結局、大予算を得て著名俳優を起用しなければ、どんなに良いものを作っても日の目を見ないのか?」という葛藤と戦いながら、日々映画を作っています。そんななかでの『カメラを止めるな!』の成功は、彼らにとって一筋の希望の光でした。

と同時に『カメラを止めるな!』の成功は、クリエイターたちの感情をデリケートにザワつかせもしました。同業者としてふつふつと湧き上がる嫉妬心、絶対に観ておかなければならないという焦り、現在のエンタテインメント業界に対する問題意識……。苦労しながら何かを表現したり作ったりしている人間にとって、本作はさまざまな意味で「観ざるをえない作品」だったのです。そんな彼らが受けた刺激はSNSなどで拡散され、「作り手も認めるほどの傑作」という同作の評価を不動のものとします。

▼ヒットの要因その4:「応援欲」をかきたてるサプライズ演出

『カメラを止めるな!』は、「予算も知名度もないインディーズ映画が商業的成功をつかみ取る」という立ち位置から、“判官びいき”を誘発する感動的なストーリーを内包しています。結果、観客の心に芽生えたのが「応援欲」でした。

本作は一般公開後、キャストによる舞台挨拶を頻繁に行っていました。そして、それらの多くはゲリラ的なサプライズでした。映画を観終わって場内が明るくなり、観客が席を立とうとすると、突如何人かのキャストが舞台に現れ、自己紹介とともに厚いお礼を観客に述べるのです。これがさまざまな劇場で連日繰り返されました。

興奮冷めやらぬ観客たちの前に現れた、奇跡的偉業の立役者たち。しかも、ほぼ無名。観客の多くは彼らを劇中の「自主映画撮影隊」の奮闘に重ね合わせ、「よくぞ作った」と惜しみない拍手を送りました。と同時に、彼らがもっと評価されてほしい、もっと売れてほしい、そのためには映画がもっとヒットしてほしい……そんな「応援欲」に包まれたのです。観客たちは劇場を出た瞬間、誰に強制されるでもなく『カメラを止めるな!』の宣伝マンとなり、周囲に作品の魅力を伝播させていきました。