しかし、この復活した花火大会も1961年を最後に再び中断してしまう。理由は交通事情の悪化のためである。この時期、隅田川沿いではオリンピックに向けて首都高の橋桁工事が行われており、危険が予測されたのである。再開は、1978年になってからだ。この時に、警備と交通整理を理由に、両国よりも少し上流で打ち上げられることになり、名称も隅田川花火と改められた。
今ではおなじみのテレビ東京(当時の東京12チャンネル)での実況中継も、この年に始まった。東京都だけではまかなえない予算を負担することで東京12チャンネルの独占契約となったようだが、ほかのメディアからのクレームもあったという。いずれにせよ、17年ぶりの復活がいかに注目されていたかがわかる。
花火大会当日7月29日(土)のテレビ欄を見てみると、19時から2時間特番で独占生中継をしている。総合司会は宮田輝、ゲストには三波伸介、ピンクレディー、榊原郁恵、こまどり姉妹、菅原文太、愛川欽也などが呼ばれている。裏番組には『欽ちゃんのドンとやってみよう!』(フジテレビ)、『クイズダービー』(TBS)、『8時だヨ!全員集合』(TBS)といった伝説の番組が並んでおり、当時から花火中継はキラーコンテンツだったことをうかがわせる。ちなみに、ピンクレディーは同時間帯のフジテレビの『ズバリ!当てましょう』にも出演し、「歌って踊って着物で奮闘」している。
2017年には視聴率10.0パーセントを記録
2017年のテレ東による第40回隅田川花火大会の中継は、平均視聴率10.0パーセント(ビデオリサーチ調べ、関東地区)という驚くべき数字を記録した。40年前と同じく同時間帯には他局の人気番組が並んでいるが、花火中継は健闘以上の結果を残している。テレ東では、マンパワーの問題もあり、花火中継はスタッフの誰もが一度は通る道となっているという。花火だけでなく、その中継もある種の伝統になっているのだ。
長い中断を挟みながらも、200年以上に渡って隅田川での花火大会は続いてきた。現在は2万発もの花火が打ち上げられる。この間、打ち上げ場所は異界の街・両国から娯楽の街・浅草へと近づき、花火に向けられるまなざしも、慰霊から国威発揚、そして娯楽へと変遷してきたと言えるだろう。花火を見上げながら、その歴史にも思いを馳せてみてほしい。
北海道大学大学院 准教授
1979年、東京生まれ。筑波大学大学院修了。博士(文学)。専攻は宗教学と観光社会学。著書に『聖地と祈りの宗教社会学』(春風社)、『聖地巡礼―世界遺産からアニメの舞台まで』(中公新書)、『江戸東京の聖地を歩く』(ちくま新書)、『宗教と社会のフロンティア』(共編著、勁草書房)、『聖地巡礼ツーリズム』(共編著、弘文堂)、『東アジア観光学』(共編著、亜紀書房)など。