初詣の人気スポット「浅草寺」に、今年も多くの参拝客がつめかけた。その裏で、門前の仲見世(なかみせ)商店街が「家賃値上げ」に揺れている。昨年9月、建物の所有者である浅草寺が家賃をこれまでの16倍にすると通達したからだ。商店街側は「商売が続けられない」と反発し、落とし所はまだ見えていない。一方で宗教社会学者の岡本亮輔氏は、「浅草寺仲見世は、明治時代から家賃問題を繰り返してきた」と指摘する――。
年中にぎわっている浅草寺仲見世商店街(著者撮影)

世界でも桁違いの参拝者数

世界には多くの聖地があるが、実は浅草寺(東京・台東区)は、その中でも最も多くの参拝者を集める場所のひとつだ。

イスラームの聖地メッカは、「ハッジ」と呼ばれる巡礼月に300万人ほどが訪れるが、これは正月三が日に明治神宮や浅草寺を訪れる参拝者数とほぼ同じ数である。南フランスにあるルルドは、19世紀に聖母が出現し、奇跡の泉が湧いたことで知られるカトリックの聖地だ。辺鄙な場所であるにもかかわらず、ホテルの部屋数は首都パリに次ぐ。毎年、世界130カ国以上から500万人の巡礼者が訪れる。

浅草寺は、年間3000万人を集めるとされている。文字通り、桁違いの規模である。国内で見れば、伊勢神宮が、20年に1度の式年遷宮のあった2013年、過去最高の約1420万の参拝者を集めたが、それでも浅草寺の半分程度にすぎないのだ。

その浅草寺の雷門から宝蔵門に連なるのが、仲見世商店街だ。江戸初期に、20軒の茶屋が置かれたのが始まりだという。現在はおよそ250メートルの区間に約90軒の店が並んでいる。2017年11月、この仲見世商店街の家賃が16倍に値上げされるというニュースが報じられた。10平方メートルあたり月1万5000円だったのが、25万円になるというのだ。

この数字をどう見るかは難しい。世界最大級の聖地の家賃としては1万5000円は安いような気もするが、とはいえ、25万円という額ははたして妥当なのだろうか。ひとつ確実なのは、仲見世の家賃問題は新しい話題ではないということだ。明治の頃から仲見世は繰り返し家賃問題で揺れており、それは、浅草寺が徳川将軍家の聖地であったことと関係しているのである。