「日本代表」の試合があると、東京・渋谷のスクランブル交差点に大勢の人が繰り出すのが恒例になっている。なぜ人はスクランブル交差点に集まるのだろうか。宗教社会学者の岡本亮輔氏は、「スクランブル交差点は交通常識に反するもので、秩序破壊の象徴だった。渋谷駅前は、『世界最大の天国』になっているともいえる」と指摘する――。
コロンビア戦終了後、混雑するスクランブル交差点でハイタッチするサポーターら=2018年6月19日、東京都渋谷区(写真=時事通信フォト)

ハリウッド映画の舞台にもなった交差点

サッカーW杯、初戦コロンビア戦の勝利後、例によって渋谷のスクランブル交差点に多くの人が集まった。2010年の南アフリカ大会では、初戦カメルーン戦の勝利後、渋谷駅前のスクランブル交差点に200人程度が集まった。歩行者用信号が青になるたびに四方から人々が集まり、ハイタッチをして喜びを表現した。2014年のブラジル大会の時には、日本戦開始から4時間にわたって、スクランブル交差点にはパイプ柵が設けられ、斜め横断ができないように規制された。そして今回も、斜め横断を禁止することで、大きな騒ぎにはならなかったようだ。

なぜ人々はスクランブル交差点に集まるのだろうか。近年では、サッカーに限らず、大晦日やハロウィンにも集まるようになっている。もちろん、渋谷という街の性格は大きいだろう。青山学院大学、國學院大学なども近く、渋谷駅から西に複数の私鉄が伸びており、沿線には若い人が多く暮らしている。渋谷は若者文化のシンボルであり、さらには東京のシンボルだ。スクランブル交差点を行く人の流れを外国人観光客が撮影した映像は、驚きとともにネットで共有されている。『バイオハザード』『ワイルドスピード』といったハリウッド映画でも、スクランブル交差点が日本を象徴する舞台として用いられた。

とはいえ、なぜほかならぬスクランブル交差点なのだろうか。代々木公園でも良さそうだし、同じく渋谷の金王八幡宮のあたりでも良さそうな気がする。そして、斜め横断を禁止すると、なぜ騒ぎは防げるのか。実は、スクランブル交差点と斜め横断は、戦後、路上が歩行者に解放されるプロセスの起点であり、斜め横断は伝統的秩序に対する挑戦だったのである。