ダイソンは試作品を段ボールでつくる

新規事業は、成功よりも失敗するケースのほうが多いものです。なぜ失敗してしまうのでしょうか。そのカギを握るのが「プロトタイピング」です。

H.I.S.の「変なホテル」はロボットメーカーと組む。(時事通信フォト=写真)

モノづくりにおいて、プロトタイピング、すなわち試作品づくりは不可欠なプロセスです。その目的は2つあります。1つは、実際に製品化できるのかどうか、実現性を確認すること。そしてもう1つは、製品のコンセプトが本当に魅力的かどうかを確認することです。例えば、掃除機で有名なダイソンでは、試作品を段ボールでつくり、コンセプトを磨いています。

こうしたプロトタイピングのプロセスは、モノづくりだけでなく、新たなサービスを始める際にも必要です。サービスは製品よりも想定外の要素が多く、1度始めるとやめることが難しいため、モノづくり以上に重要と言えますが、意外と疎かにされがちです。このことは、特にメーカーがサービスに参入する際のハードルになっています。

スイカ導入の4年前に香港の鉄道が採用していた

例えば、ソニーが、非接触ICカード技術のフェリカ(FeliCa)を幕張地域のインテリジェントビルの社員証に用いたことがあります。入退室管理もできて便利なため、想定以上に複数のビルで採用されましたが、その結果、電波が干渉して誤作動が起きるようになってしまいました。これは、現場試験というプロトタイピングを十分行わずに撤退したケースと言えます。

そのフェリカが、プロトタイピングによって成功したケースがJR東日本のスイカ(Suica)です。スイカのサービス開始は2001年ですが、その4年前に、香港の鉄道でフェリカを採用したオクトパスカードが導入されました。このプロジェクトは、2つの点でスイカにとってのプロトタイピングになりました。1つは、JR東日本の複雑な路線網に導入する前に、路線や駅の数の少ない香港で実践できたこと。もう1つは、香港の顧客からの要望で、電子マネー機能を搭載したことです。この経験があったことで、スイカは最初から成功できたと言えます。

新たなビジネスモデルを導入する際も、プロトタイピングは欠かせません。ネスレ日本が12年に始めた「ネスカフェ アンバサダー」は、ネスレのアンバサダー(大使)となった顧客の職場にコーヒーマシンを無料で提供し、アンバサダーはボランティアで、専用カプセルに入ったコーヒーをネスレから仕入れ、職場で希望者に販売し、代金を回収し、ネスレに支払うという画期的なビジネスモデルです。このモデルを生み出すまでに、同社は1年以上をかけてプロトタイピングを行い、試行錯誤を繰り返しています。