整理・整頓・清掃の「3S」

日本の優れた企業には、経営者や従業員が自ら掃除や整理整頓に取り組んでいるところが少なくありません。本田宗一郎、松下幸之助といった名経営者も、掃除や整理整頓を大事にしてきました。掃除には、どのような経営上の効果があるのでしょうか。

経営の神様・松下幸之助は掃除の大切さを説いた。(時事通信フォト=写真)

日本の企業の歴史を振り返ると、経営課題を掃除によって乗り越えてきたことがわかります。今も、製造業を中心に、整理・整頓・清掃などの5Sに取り組む企業が多くあります。5Sという言葉が多く用いられるようになったのは、1970年代後半から80年代前半にかけてです。その背景には、当時、大手企業を中心に取り組み始めたTPM(Total Productive Maintenance)があります。

全員参加で生産保全に取り組む活動ですが、その基礎として掃除や整理整頓を位置づけ、5Sと呼んで取り組むようになったのです。当時、欧米企業と熾烈な競争をしていた日本企業は、生産性向上のために掃除や整理整頓に力を入れました。

60年代には、すでに3Sという言葉が登場していました。この頃は労働災害が頻発していた時期で、職場の安全性を高めるために整理・整頓・清掃の3Sに力を入れたわけです。

「無駄なし運動」「無駄なし週間」

時代を遡ると、20年代前半から30年代前半にかけても、掃除や整理整頓に力を入れていたようです。当時は関東大震災や昭和恐慌によって国全体が困難な状況にありました。そこで、節約のために、「無駄なし運動」「無駄なし週間」といった言葉で、企業の枠を超えて取り組みました。

日本企業が掃除や整理整頓に取り組むようになった端緒は、1900年前後です。この頃、多数の労働者を集めた工場が操業するようになりました。当時盛んだった繊維工場で働くのは、「女工」と呼ばれた数多くの女性たちでした。多くは親の借金の肩代わりに連れてこられ、長時間、低賃金の労働を強いられましたが、当時の資料を読むと、女工たちのおしゃべりや怠業が絶え間なく、仕方なく長時間労働にせざるをえなかったことが記されています。

また、男子の職場でも、同様に規律や勤勉性の欠如が問題になっていたようです。そこで、規律や勤勉性を高めるために導入されたのが、掃除や整理整頓でした。