米国務長官が駐車場係と談笑して気づいたこと

私は国務長官をしていたとき、警備担当者の目を盗み、きれいに磨かれたオフィスをあとにして駐車場まで下りてみたことがある。駐車場の運営は外注で、働いているのはだいたいが移民か少数民族。給与は最低賃金に近いレベルだ。

コリン・パウエル氏

駐車場は、職員の人数に対して小さすぎた。だから、毎朝、ものすごい苦労をして車を詰め込むことになる。キーを預かった係員たちが、隙間がほとんどないほどきっちり縦に並べて駐車するのだ。

国務長官が駐車場をぶらついたことなどなかったからだろう、係員は私が道に迷ったと思い(そういう面もないではなかったのだが、私は迷ったと認めなかった)、「帰り道」を教えましょうかとたずねてきた。

「いや、いいよ。君たちとちょっと話ができたらと思っただけだから」

そう言うと、彼らはびっくりしながらも喜んでくれた。私は、仕事はどうか、どこから来たのか、一酸化炭素は大丈夫かなど、いろいろとたずねた。なにも問題はないとのことだった。

しばらく雑談したあと、不思議に思っていたことを聞いてみた。

「毎朝、車が次々に到着するとき、最初に出られる位置にどの車を停めるのか、2番目、3番目にどの車を停めるのか、どうやって決めるんだい?」

係員は顔を見合わせて薄く笑い、そのひとりがこう教えてくれた。

「国務長官殿、ま、どういうふうかってぇとですね……ここに着いたとき、車の窓をあけてにっこり笑いかけ、オレらの名前を呼んだり『おはよう。元気にやってるかい?』などと声をかけてくれる人は最初に出られるところっすね。前をじっと見てオレらが何かをしてあげていると気づきもしない人、オレらがいることにも気づいてくれないような人とかは、ま、最後に回されますね」

このあたりで、私はにっこりと笑って礼を言い、私を探しているSPのところへ戻ることにした。