掃除や整理整頓によって得られる経営的な効用
なぜかというと、日本社会では、昔から掃除や整理整頓を大切にする文化的な背景があったからです。
理由の1つは宗教的なもので、神社に参詣する前に身を清める風習があります。もう1つは環境的な理由です。日本は蒸し暑い気候で、また小さな国土に密集して住んでいるため、身ぎれいにしたり、整理整頓せざるをえず、家庭でもそういう躾がされてきました。こうした文化を背景に、日本企業は経営危機に直面するたびに、全員で掃除や整理整頓をするところから、さまざまな問題解決に取り組んできたのです。
では、掃除や整理整頓によって得られる経営的な効用とは、どのようなものでしょうか。大別すると、掃除から得られる直接的効用と、掃除をする人間による間接的効用があります。
直接的効用としては、「職場環境の安全衛生や公衆衛生の向上」「効率の向上およびコストの削減」、間接的効用としては、「機械や備品の耐用年数の向上」「従業員のモチベーションやモラルの向上」「チームワークや連帯感の向上」「売り上げの向上」が挙げられます。
なぜ、自前で掃除をしたほうが効用があるのか
企業における掃除や整理整頓には、外部に委託する外注型と、自社社員による自前型の2つがあります。それぞれの企業グループに分けて掃除の効用に関するアンケートの回答を比較してみました。すると、直接的効用については、ほとんど違いはありませんでした。ところが、間接的効用については、自前型グループのほうが圧倒的に高い比率で「効用あり」と回答していました。
なぜ、自前で掃除をしたほうが効用があるのでしょうか。機械や備品の耐用年数が向上するのは、自分たちで掃除をすると、愛着が湧き、大切に使うようになるからです。その延長で、職場や会社への愛着も高まり、同僚と一緒に掃除をすることで、チームワークも高まり、職場の雰囲気がよくなります。さらに、従業員の清掃する姿に感激して、新たな顧客が増え、売り上げの向上につながることもあります。
この結果を踏まえると、日本企業は、掃除によって得られる直接的効用よりも、掃除をする人間によってもたらされる間接的効用を大切にすることによって成長してきたことがわかります。
ここまで、過去の資料やデータに基づいて日本企業の掃除や整理整頓の効用について見てきました。次に、経営学の最新の研究を踏まえ、掃除を大切にする日本企業を、戦略創造と問題解決の2つの視点から見てみましょう。