サービスがチグハグな飲食店は少なくない。なぜ、店主やスタッフは自分たちの弱点に気づかないのか。「それは、良かれと思ってやっているからですよ」と、飲食チェーンにしはらグループ社長の西原宏夫さんは言う。自らも独りよがりの経営を繰り返してきたらしい――。

成功の絵は、いつも完璧に描けていた

焼肉、すし、居酒屋、ラーメン、お好み焼き……。静岡県三島市を拠点に、これまで80軒以上の飲食店をオープンした。そのうち、64軒を潰してしまった。成功したのは、とんかつ屋だけと言ってもいいかもしれない。そのとんかつ屋も、はじめはパッとしなかった。

失敗するのがわかっているのに、なぜ、そんなに店を出すのかと思われるだろう。しかし、失敗すると思って店を出す人なんていない。誰もが成功すると思って、夢を見る。でも、失敗する。飲食店が10年持つのは1割と言われているが、実感に近い。

店を作る楽しさというのは、やった人にしかわからない。こういう空間で、こういう料理を出して、こういう制服で、こういうサービスをすれば、お客さまが喜んでくれる。いい店だ、と確信する。成功が完璧に見えている。でもやっぱり、失敗する。

とんかつ屋は、なぜ成功したのか

とんかつ屋はとくに儲からないものの、安定はしていたので、3軒、4軒と増やした。店では、世の中のスタンダードに合わせて、ごはん、味噌汁、キャベツ、漬物をおかわり自由にしていた。私もときおり、店の応援に立つのだが、あるお客さまは、ごはんをおかわりしたのち、味噌汁をリクエストする。あるお客さまは、漬物ばかりを何度もおかわりし、直後にごはんをオーダーする。一緒に頼んでくれればよいのだが、バラバラに注文される。そういったズレが重なって、店のオペレーションは崩壊する。

店でアンケートを取ってみた。「最悪だ!」と書いてある。「なぜ、すぐに持ってこないんだ!」と、怒りの投書が数多くあった。「二度と来ない!」というのもある。こちらはすごいサービスだと思って提供していた。たっぷり原価をかけているのに、この言われようは何だろう。

そこまで言うなら、こちらにも考えがある! ということで、店のカウンターの一部を潰し、そこにごはんと味噌汁、キャベツや漬物をおいて、自分で取りに来てもらうことにした。4品では寂しいので、コーヒーやかんたんなデザートもおいた。すると、不思議なことが起きた。