見る人の視線で映画のストーリーが変わる
【田原】見る人の視線で映画のストーリーが変わるわけか。ここに製品がありますね。試していいですか。
【小島】ぜひぜひ。まずヘッドセットをつけてもらって、目の動きをとらえるカリブレーションを行います。それができたら、次はゲーム選択です。いまやってもらいたいのは潜入捜査官のゲーム。もうここから目で操作します。あのアイコンをじっと見てもらえば選択ができます。
【田原】見ればいいのね。……おお、ホントだ。
【小島】このゲームでは田原さんが潜入捜査官になって、テロリストに拘束されているところから始まります。田原さんは猿ぐつわを噛まされていて話せません。目線だけで相手と心理戦を行って脱出するゲームです。たとえばいま、テロリストから「この写真の中にほかに仲間はいるか」と聞かれましたよね。ちょっと好きなところを見てもらえますか。田原さんがどこを見るかによって、展開が変わります。
【田原】真ん中の写真を見たら、「こいつがおまえの仲間か」と聞いてきました。なるほど、また別のところを見ると、テロリストは違うリアクションをするわけね。実際にやってみてわかりました。おもしろい技術ですが、用途はゲームや映画などエンターテインメント中心?
【小島】いえ、違います。FOVEは感情だけでなく、人間全体を表現したり、物理的に解放するツールになりえます。実際に以前やった取り組みが「Eye Play the Piano」。筋ジストロフィーの男の子がまばたきでピアノを弾くプロジェクトです。
【田原】まばたきで弾く?
【小島】特別支援学校では、体の不自由な生徒の代わりに先生が弾いているという話を聞きました。そこで視線追跡技術を使って、体が不自由な生徒さん自身にピアノを弾いてもらうのです。
【田原】そんなことができるんだ。
【小島】実際、筋ジストロフィーやALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者さんは目を使ってキーボードを打つことがあります。同じように芸術活動に応用すれば、人生の選択肢の中から楽器を弾くという表現行為を諦めた人たちが、それを取り戻せるんじゃないかと。このプロジェクトは成功して、15年のカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルで銅賞をいただきました。
【田原】なるほど。エンタメだけでなく福祉にも使えるんですね。
【小島】普及はエンタメからになるかと思いますが、それ以外の分野にも活用していきたいと思っています。