視線を追跡できるVR(バーチャルリアリティ)ヘッドセットを世界ではじめて商品化したFOVE。開発したのは、プレイステーションのソフト開発をしていた女性経営者だ。VRでこれまでにない映画体験に挑戦する、彼女の想い描く未来とは――。

視線を追跡できるVRヘッドセットを世界初商品化

【田原】小島さんは視線追跡の技術を活用したヘッドマウントディスプレイ「FOVE」を開発した。でも、ごめんなさい、僕は全然わからない。視線追跡の技術とは何かというところから教えてもらっていいですか。

【小島】私は学生時代に自主製作の映画を撮ったほど、映画が好きです。ただ、映画って、登場人物と目が合ったり、笑い合ったりできない。こちらから相手を見ることはできても、向こうからはこちらの視線がわからないからです。それをわかるようにするのが、視線追跡の技術です。

【田原】そんなことできるんですか?

【小島】いまはまだ視線を合わせるところまでできませんが、映画とVRのミックスはどんどん進んでいます。2017年、「肉と砂」という短編VR映画に、22年ぶりにアカデミー特別業績賞が贈られました。メキシコから米国に国境を越えようと砂漠を放浪する不法移民を描いた映画ですが、観客はヘッドセットをつけると、移民の視点で映画を見られます。たとえば砂が敷いてある床の上を走らされたり、警官が前から迫ってきたり。映画は、見るものから、その中に入って体験するものに移りつつあります。

【田原】そこに視線追跡の技術が加わるとどうなるの?

【小島】映画を「体験する」ところから、さらにその先の「関わる」ところに行けます。たとえば映画の中で前から警官が迫ってきますよね。このとき、迫ってきた警官に観客の表情はわからず、ただののっぺらぼうにしか映りません。それは観客側の感情を伝える出力装置がないからです。でも、視線を出力できるようになったら、たとえば警官を睨みつけたり、逆に目を逸らすことができるようになる。こちらの動きに合わせて映画の中の警官の反応が変われば、新しいドラマが生まれます。