漫画を読んで諦めた、医師の道

【田原】小島さんの半生をうかがいましょう。新潟の生まれで、大学はお茶の水女子大学。どうしてそこに?

FOVE CEO 小島由香氏

【小島】母がいわゆる教育ママで、私を医者にしたかったそうです。私もそのつもりでしたが、高3のときに漫画『ブラックジャックによろしく』を読んで、生半可な気持ちでは医者になれないと諦めました。文系に転向しても受験できたのが、お茶の水女子大だったというわけです。

【田原】卒業後はゲーム会社に就職。ゲームは昔から好きだったんですか。

【小島】父がゲーマーなので、物心ついたときから身近にゲームがありました。ただ、父がやっていたアクションゲームより、その世界に入り込んで自分でキャラクターをつくっていけるロールプレイングゲームが好きでした。小学校高学年のころに「ドラゴンクエスト3」に出合って、思い切りのめり込みました。私は漫画も大好きで、自分でも描いていますが、当時は「ドラクエのキャラはこんな性格です」という4コマ漫画を描いたりしていました(笑)。

【田原】小島さんは表現するのが好きなんだね。でも、表現方法にもいろいろある。どうして就職先としてゲーム会社を選んだのですか。

【小島】まず、漫画は担当編集者がつくくらいに頑張ったのですが、実力不足で在学中にデビューできる水準に達しませんでした。あと、学生時代は自主製作映画を何本か撮ったりもしました。ただ、映画は監督が完璧な世界観をつくって、それを観客に見せる形式です。それよりも私はその人だけの物語が芽生えていくものをつくりたかった。そう考えると、ゲームかなと。

【田原】入社先はソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE。現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)だった。どんな仕事を?

【小島】アシスタントプロデューサーです。製作職は、実際に物語をつくるディレクター職と、それを支えるプロデューサー職に分かれますが、私はプロデューサー側。物語をつくりたくて入社したので不満でした。ただ、仕事をする中で天才と呼ばれるディレクターと話すと、これは勝てないなという思いも湧いてきました。自分は大きなコンセプトを提案して、その上でディレクターが才能を発揮できる舞台をつくる。それが最高のクリエイティビティじゃないかと思い、切り替えました。