「同じ仕事量を短時間で」疲弊する社員たち

労働政策研究・研修機構の調査(※)によると、平成27年度に従業員の自己啓発(例:外部研修費用の補助)への支援を行わなかった企業は7割に上ります。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/olaser)

また支援を行った企業でも、従業員1人当たりにかけた年間の支出額は、「1000円~5000円未満」(35.5%)が最も多く、平均額は約1万円でした。これでは残業代の削減額にはほど遠く、残業削減のインセンティブにはなりません。

長時間労働の改善を企業の成長に結びつけるためには、コスト削減という経営者の側の視点だけにとどめず、従業員の人事評価や能力開発、モチベーションの向上など、企業の付加価値向上に資するという視点を持つことが大切です。そうした発想を経営者が持てるかどうかが試されているのかもしれません。

※労働政策研究・研修機構「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(企業調査、労働者調査)」(2017年8月)

【3:経営トップからの呼びかけと現場の施策を両輪で推進】

企業活力研究所の調査(※)によると、所定外労働時間が短縮された企業とそうでない企業を比較すると、「経営トップからの呼びかけや経営戦略化による意識啓発」に大きな差がありました。この調査からも長時間労働の削減には、経営トップが姿勢を示すことが重要だとわかります。

長時間労働の削減について、従業員から「こなせる業務量が減り、業績(目標数字等)が低下する」という懸念が出てくることもあります。そうした懸念を払拭するためにも経営トップが明確なメッセージを出すことが必要なのです。

※企業活力研究所「長時間労働体質からの脱却と新しい働き方に関する調査研究報告書」(平成28年3月)

一方、長時間労働の改善に成功している企業では、経営トップからのメッセージを受け、現場が具体的な取り組みを推進していく例が見られます。

例えば、働き方を変えるための業務プロセスやツールを用いることで、従業員各人がその日の退社時間を事前に「見える化」するケース。また、取引先などからの直行直帰の容認、IT機器を活用した営業員の事務処理サポート、テレワークの導入といった施策が効果を発揮しているようです。

大事なのは、経営者側が短期的な成果を期待せず、こうした取り組みを継続することで長時間労働の生んだ風土の改善につながるという理解を持つことではないでしょうか。

▼最後に

「長時間労働の削減」といったときに、社内で求められる成果を今までよりも短い時間でこなすことだけを要求されれば、従業員の精神的負担は増えることが懸念されます。組織として真剣に取り組むのであれば、従業員の共感を得られるような姿勢と具体的な施策の両方を、経営者がきちんと示していくことが大切だと感じます。

(写真=iStock.com)
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