生活費獲得のための残業代稼ぎを止めさせる方法
残業を減らすために必要な対策として「経団連調査」では、「業務の効率化」(28.5%)、「定時退社日の設定」(23.3%)、「会議の効率化」(13.7%)、「ICTツール導入」(11.6%)、「業務の標準化」(10.4%)、「適正な人員配置」(10.4%)などをあげています。これらの項目は重要な内容ですが、目新しいものとは言えません。昔から言われ続けながら、なかなか実現できていないことです。
業務業態によっては、顧客対応で早く帰れない職場もあるでしょう。しかし、筆者の経験や調査に基づけば、顧客向けではなく、まずは「社内向けの仕事の効率化」を優先すべきと考えます。社内で長時間労働の原因を検証し、時間浪費の“犯人”(原因)を突き止めることから始めるべきなのです。
筆者の往訪先には、働き方改革を積極的に推進する企業もありました。たとえばこうした企業です。
●誰でもテレワーク
「育児・介護などの事由を問わず、テレワークが利用でき、個人の都合で柔軟に利用ができる」
●テレビ会議で出張削減
「テレビ会議などコミュニケーション支援ツールを導入し、社内会議に参加をするための移動(出張等)を削減できる」
「社内向けの仕事の効率化」には、今までの仕事の仕方を根本的に変えなければいけません。その実現には従業員個人の工夫や努力だけでは限界があります。新たなツールの導入やシステムへの投資、あるいは、1人の社員が複数の仕事を担当できるような人材育成への投資など、企業として積極的な施策展開が必要です。
▼削減された残業代を社員の福利厚生や人材育成に還元
【2:従業員に残業代削減のインセンティブを与える】
連合は「労働時間に関する調査」(2015年)(※)で、残業を命じられたことがあると回答した1775人に「なにが残業の原因になっていると思うか」と聞いています。最多回答は「仕事を分担できるメンバーが少ないこと」(52.6%)で、続いて「職場のワーク・ライフ・バランスに対する意識が低いこと」(23.7%)でした。
※調査対象は20~59歳の男女雇用労働者(正規労働者・非正規労働者)3000名。
この中には、「残業代を稼ぎたいと思っていること」(8.7%)という回答もありました。残業の原因の多くは、前述のように業務のやり方や働く時間に対する意識にあると考えられます。しかし、マジョリティではありませんが、生活費のために残業が必要な方もいると考えます。こうした方々たちは、職場から長時間労働の改善を促されたとしても、簡単には残業を止められないでしょう。どうすればいいのでしょうか。
「経団連調査」によると、長時間労働の是正に向けた数値目標(KPI)を達成するための施策として最も多いのは「経営トップメッセージ発信」(20%)であり、続いて「時間外勤務に上限値設定」(19%)、「残業状況の管理・共有・フォロー」(15%)となっています。
この3点はとても重要だと思いますが、私が長時間労働の是正にもっと効果的だと考えるのは「時間外労働の削減を人事評価などに反映すること(評価やインセンティブ)」です。
「経団連調査」では、是正の施策として「評価やインセンティブ」をあげる回答は6%しかありませんでした。この調査が企業を対象としていることを考えると、企業は生活費のために残業代が必要な従業員がいることを認め、より多くの従業員がメリットを感じられるように改善策を講じる必要があると考えます。
例えば、長時間労働の改善により削減された残業代を、従業員に対する福利厚生(例:旅行券の付与)や人材育成(例:自己啓発費用)に還元すれば、従業員、企業の双方がメリットを得られます。筆者が往訪した企業のなかには、休暇を取得すると旅行券の付与があるようにしたところ、ほとんどの従業員が休暇を取得し、休暇の取得率が大幅に向上したそうです。余暇に非日常の経験をすることは、仕事に対する新しい発見や気づきにつながり、従業員の育成にもなります。