コンサルティング会社・経営共創基盤(IGPI)の冨山和彦CEOは、日本の競争力を高めるために「労働市場の再設計が必要だ」という。そして具体例として「現状の最低賃金は地域で最も弱い企業が基準になっているが、この基準を強い企業とするべきだ」と主張する。その狙いとは――。
日本型モデルはすでに賞味期限が切れている
「新卒一括採用」「メンバーシップ型雇用」「終身年功型組織」。これが戦後の日本型経営の特徴でした。政府や経団連などは、いまだにこれを標準=望ましい形態としているようです。しかし、現実には、この日本型モデルはすでに賞味期限が切れています。
このモデルが機能したのは、高度成長期からバブル期まで。黙っていても市場が拡大したので、企業はごく単純な原理で勝負できました。つまり従業員を長く働かせて、1日の生産量を100から120にすれば競争に勝てました。だから、人生のすべてを捧げるフルタイム=フルライフという従業員ばかり集めて、同質的で連続性のある組織をつくったのは、人件費効率という面からも有効だったといえるのです。
一方、従業員のほうも、長時間働けばそれだけ所得が増えるという理由で、残業を歓迎しました。つまり、会社にとっても従業員にとっても、それからおそらく経済全体にとっても、日本型モデルは合理的に働いていたのです。
日本型の同質性と連続性がマイナスに作用
このフェーズが変わったのは、1990年代に入ったころからです。89年に東西冷戦が終結すると、途上国や新興国が市場経済にこぞって参入してきました。とくに、日本型モデルのいいとこ取りをした中国が、安価な人件費を武器に急激に成長してきたため、日本企業の優位性はあっという間に失われていきます。
さらに、デジタル革命が起こり非連続的イノベーションの時代になると、日本型の同質性と連続性がむしろマイナスに作用しはじめました。高学歴の男性を大量に集めて、組織の下の階層から30~40年かけて順に昇っていくというやり方では、生産性が上がらないのです。
また、この時期には、安い労働力や新たな販路を求めて海外に拠点を移す日本企業も出てきましたが、当然のことながら海外では、文化や価値観が日本とは異なります。それで、これまでとは逆の多様性を受け入れる経営に移行せざるをえなくなったというのも理由のひとつです。