「3年前まで当社はブラック企業でした」

白状しましょう。3年前まで当社はブラック企業でした。社員1人あたりの月平均残業時間は76時間。多い人は100時間近く残業していたのですから、紛れもないブラック企業です。妻から「そんなに働かせるなんてバカじゃないの」といわれたこともありましたが、当時の私は聞く耳をもっていませんでした。

武蔵野社長 小山 昇氏
1948年、山梨県生まれ。東京経済大学卒。76年、現在の武蔵野に入社。89年から現職。550社以上の会員企業を指導する「中小企業のカリスマ」としても知られる。『絶対に会社を潰さない 社長の時間術』(プレジデント社)など著書多数。

そんな私が2015年度の経営計画発表会では、残業時間月45時間未満という目標を掲げたのです。最大の理由は時代の変化。変わり目は14年4月の消費税増税です。これを原資に公共事業が盛んになりました。少子高齢化による労働人口の減少も手伝い、労働市場は売り手有利の環境に。そうなると、退職者が出てもすぐに補充できないので、残った社員の負担は増えます。そんな彼らを残業で酷使したら、さらに辞めていく人が続出するのは必至。これでは組織がもちません。

新卒者の会社選びの基準も変わりました。ゆとり世代の特徴なのでしょうが、「仕事が楽で給料が高い会社」よりも「仕事が楽で休みの多い会社」に人気が集まるようになってきたのです。

残業が少ない社員には「ボーナス」

月45時間以上の残業は法令違反という判決が相次いだことも、残業を減らそうという気持ちの後押しとなりました。法令違反の根拠は労働基準法第36条、いわゆるサブロク協定です。会社はこの協定を労働組合あるいは労働者の代表と結べば、社員に残業をさせることができますが、無制限というわけにはいきません。限度時間は月45時間と定められています。判決が出ているのですから、協定を守らず社員に訴えられたら会社は勝てないでしょう。つまり、社員を違法残業させることは会社にとってリスクなのです。

しかし、月76時間あった残業を4割減の45時間未満に減らすのは、簡単ではありません。最初の難関は既存社員の抵抗です。ゆとり以前の社員にとって、残業代は形を変えた生活給にほかなりません。残業が減るのはうれしいが、収入が減ると毎日の生活に支障が出るから困るというのです。そこで、残業時間と勤務評価を連動させ、残業が少ない社員には賞与をたくさん出すようにしました。

売り上げが下がらずに残業が減ったら、賞与を対前年比120%(パートは同200%)増として、最終的には残業をしない人のほうが、残業をして月々の残業代を稼ぐ人よりも年収が多くなるようにしたのです。それから、残業費の削減によって出た利益で、基本給もベースアップしました。いまでは、可処分所得が減ることを恐れて定時後も帰るに帰れないような社員はひとりもいません。