なぜ、小さなNPOに次々と優秀な人材が集まったのか。雑誌「プレジデントウーマン」の連載「働き方革命」では毎号、仕事と子育てを両立する女性の活躍ぶりをリポートしている。2017年8月号で取り上げたのは、日本初の訪問型病児保育事業や小規模保育などの事業を手がける認定NPO法人フローレンス。一度仕事を辞めた人が再び輝く理由とは――。
なぜNPOに次々と優秀な人材が集まったのか
▼フローレンスの現状
・フローレンスは設立時メジャーではなかった「病児保育」という分野のNPOだった。
・母親がワンオペ育児を担う日本の働き方そのものを変える必要性を感じていた。

今年4月、東京湾ウォーターフロントの一画に、「みんなのみらいをつくる保育園東雲」が開園した。定員は54人。待機児童の解消のために、これまで9~12人の小規模認可保育事業「おうち保育園」を展開してきたフローレンスの新たな取り組みだ。保育士9人、パートまで含めれば20人で保育に当たる。

みんなのみらいをつくる保育園東雲 園長・成川宏子さん。成川さんが部屋に入ると、「なり先生、今日は何するの?」と子どもたちがうれしそうに話しかけてきた。

園長の成川宏子さん(2010年入社)はどんなに忙しい日でも、15時になると必ず子どもたちのいるフロアに足を運ぶ。日課の「サークルタイム」を開くためだ。

丸く椅子を並べ、子どもたちと職員が座ると、成川さんが「今日はみんなに聞いてみたいことがあります。みんな、どうしてお洋服を着るのかな?」。子どもたちは一斉に「はい」「はい」と手を挙げ、「寒いから」「風邪ひいちゃうから」と思いつくままに答える。30分間、話したいという子どもたちの欲求は途切れることがなかった。最後に成川さんが「みんながやってることには、理由があるんだね。さあ、おやつにしましょう」と結んだ。

サークルタイムは「ピースフルスクールプログラム」のひとつ。近年、いじめや学級崩壊に悩むオランダで開発されたプログラムだ。「ほかの子どもとの共感を大事にし、友達を思いやる気持ちを育みます」

彼女が理想とする保育教育である。

成川さんは短大を卒業した後、約20年間、幼児保育に携わってきた。結婚後、1度は「両立は無理だと思った」と退職。だが、幼稚園から「またやってみない?」と声がかかり、パートタイムで仕事をつづけてきた。フローレンスには、「おうち保育園は少人数なので、1対1でじっくりと子どもと向き合えるのが魅力」と応募した。

最初は神奈川・日吉にあった園にパートで入り、途中からフルタイムに切り替わる。

「家庭的な園で、子どもたちがなじみやすい雰囲気がありました」

その後、東京の豊洲など3つのおうち保育園を経験する。

「できる範囲で保護者の要望に応えてきました。たとえば、濡れた服は別にするといったことなど。少人数保育だからできることです」

豊洲園時代に園長の辞令が下りたときは驚いた。

「園長になれるのはフルタイムで保育士をつづけてきた人だけだと思っていましたから」

多様性を認める保育をしながら、スタッフも多様性のある人を集める。「同じ雰囲気の人ばかりではダメ。いろんな経験や視点を持った人たちが集まったほうがいいチームになるのかなと思います」