96歳の現役保育士・大川繁子さんが勤める小俣幼児生活団は、モンテッソーリ教育とアドラー心理学を取り入れたユニークな保育園だ。給食も昼寝も強要することがなく、子どもたちの「自由に生きる力」を育てることを大切にしている。小学校の先生が口を揃えて指摘する卒園児たちの力とは――。

自由に生きる力を育てる“奇跡の保育園”

96歳の現役保育士である、大川繁子さん。園児たちに向けられる、顔いっぱいのくしゃくしゃの笑顔は、96歳とは思えないほど若々しい。

繁子さん60年来の職場が、栃木県足利市にある「小俣幼児生活団」だ。七十数年前に繁子さんが嫁いできた旧家の建物と敷地が、丸ごと保育園となっており、最も古い園舎は江戸後期のもので足利市の国登録有形文化財だ。

小俣幼児生活団 主任保育士 大川繁子さん
撮影=市来朋久
小俣幼児生活団 主任保育士 大川繁子さん

園にやってきた子どもたちは江戸期や明治期に建てられた古い日本家屋の園舎で過ごし、池や山や梅林がある、3000坪という広大な敷地を自由に遊びまわる。「子どもたちの、昼間の大きな家」、こんな考えで作られた園舎なのだ。

ここはいつからか「奇跡の保育園」と呼ばれるようになったが、それは独特の園舎や96歳の現役保育士がいる以上に、「小俣幼児生活団」ならではの、保育のあり方が大きい。

「保育士人生60年の半分がふつうの保育を、後の半分が今の保育をしています。今は、子どもが自由に生きる力を育てる保育ですね」

給食はバイキング形式

園にはプログラムなど、「みんなで同じことをする時間」はない。子どもたち一人ひとりが、自分のやりたいことをして過ごす。最年長の5歳児は1日1時間、みんなで同じことをするが、何をするかは子どもたちが前の週の金曜日に決める。

給食はバイキング形式で、自分で食べたいものを、どれぐらい食べられるのかを決めて、自分で皿によそう。食べるものの強制もないし、残さずに食べないといけないということもない。給食の時間になってもやりたいことがあれば、パスしても構わない。

給食はバイキング形式。好きなものを食べられる量だけとっていく
撮影=市来朋久
給食はバイキング形式。好きなものを食べられる量だけとっていく
給食をよそっていく子供たち
撮影=市来朋久

お昼寝の強要もしない。20分経っても眠れなかったら、起きて遊んでも構わない。

ルールは園児が決めるのが基本で、保育士が勝手に決めることはなく、園児と話し合って決めていく。

保育士は、園児に命令はしない。何か行動してほしい時は、「してくれませんか」と声をかける。「しなさい」「してください」とは言わない。危ない時以外は、喧嘩の仲裁もしない。

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根底にあるのは、「モンテッソーリ教育」と「アドラー心理学」だ。モンテッソーリ教育は自立した人間を育てるための教育法で、大人は子どもが持つ能力を引き出すための、あくまでサポート役に徹する。「アドラー心理学」は、大人と子どもを対等の立場に置くもので、命令することも怒ることももちろん、褒めることも評価を下すことだから行わない。ただ子どもを認め、尊重する。

この保育方針は創立者である繁子さんの義母が亡くなり、次男の眞さん(73)が25歳で園長に指名されたことにより、「小俣幼児生活団」の揺るぎない柱となった。