今が一番幸せ
今は眞さんが車で送迎してくれるようになったものの、相変わらず、一人暮らしがラクでいい。
「一人で好き勝手にやれるから、それが良くて……。ここ数年、ようやく、何も思い煩わされることがなくなって。本家のお嫁さんだから、いいお嫁さんをしないと、という時代からすれば、今が一番幸せですね」
嫁だけではない。3児の子育ての後、保育士をしながらPTAに教育委員、裁判所の家事調停員、市の女性問題懇話会座長など公職も引き受け、ずっと忙しく働いてきた。長年の功績から叙勲の話も出たが、繁子さんはあっさりと何の頓着もなく断った。
これからも週に数回、保育の現場に立つつもりだ。仕事を辞める気は、毛頭ない。
「自分にまだ何か、役に立つことがある限り、やっていきたいですね。卒園した子が6年生になって挨拶に来てくれたりすると、うれしいですね。あんな、ちっちゃかった子がって。ずっと仕事をしていくことに、嫌だなって思ったことはないですね」
健康には特に気を使うことはないが、とにかく丈夫。リトミックの研修に参加したとき両手首を骨折したことがあったが、あっという間に回復し医師に驚かれた。コーヒーには角砂糖を平気で5つ。甘いものが、とても好き。そんな繁子さんが頬を赤らめ、こう言った。恥ずかしくて、言葉に出したくはなかったのかもしれないけれど。
「元気の秘訣は、リトミックと読み聞かせですね」
福島県生まれ。ノンフィクション作家。東京女子大卒。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』(集英社)で、第11 回開高健ノンフィクション賞を受賞。このほか『8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語』(集英社)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)、『シングルマザー、その後』(集英社新書)などがある。