▼東京急行電鉄の現状
・鉄道会社では、朝のラッシュの時間帯の混雑緩和は重要な課題であった。
・一方で、将来訪れる人口減による乗降客数減少という課題もある。
東京急行電鉄(以下、東急電鉄)の本社から徒歩10分、東京・渋谷警察署の近くのビル9階に、「NewWork」という名のシェアオフィスがある。現在、東京を中心に提携先を含め全国65カ所で利用できるこのオフィスは、昨年から始まった東急電鉄の新事業だ。
利用者の1人で、同社に勤務する大熊敦さんは、3人の子どもを持つ父親。彼は「NewWork」を活用するようになってから、「家庭で急な事情があっても対応できるようになった」と語る。
幼稚園は送りが朝の9時、お迎えが午後2時。子どもたちのお迎えを終えた後に会社へ戻ると、彼の暮らす街からでは午後4時頃になってしまう。妻の急用や病気の際、今までなら全休を取得しないと対応できなかった。街に「NewWork」ができたことで、通勤時間がほぼなくなり、幼稚園の送迎と業務の両立が可能になった。「仕事の流れを止めずに済むようになった」と彼は話す。
「NewWork」事業の運営の中心は、もともと不動産事業の営業部にいた40代の永塚慎一さんと30代の野﨑大裕さんだ。同社では2015年に「イノベーション推進課」が経営企画室の中につくられ、新規事業の創出を目的とした「社内起業家育成制度」が始まった。2人は同年にこの事業を提案、第1号案件として採用された。
東急電鉄の都市創造本部は渋谷をはじめとする都心部および東急沿線を中心に開発を手掛けており、これまで東京・二子玉川駅、神奈川・たまプラーザ駅の周辺などで事業を進めてきた。永塚さんが「NewWork」というサテライトオフィスの企画案を思いついたのも、オフィスビルの営業でテナントを誘致していたときのことだった。
「渋谷や二子玉川の新しいオフィスに入るお客さまは、成長スピードの速いIT企業が多い。彼らは積極的に採用を行うので、オフィスがすぐに手狭になるんです。お話を伺っていても、会社や自宅のそばにシェアオフィスがあれば、積極的に利用したいという声が多かった。満員電車にも乗らなくてよくなりますしね」
2人は15年の応募以来、「社内起業家育成制度」のサポートを受けて「NewWork」の事業化を進めてきた。制度では、事務局は事業計画の立て方、最終的に社長の前で行うプレゼンなどに向けてサポートし、社内起業を志す社員を全面的に支える仕組みとなっている。社長プレゼン通過後には在籍部署から経営企画室に異動し、専属で事業化を進めていくことができる。