人事の“本気”は施策にあらわれる
東急電鉄が社内の働き方改革とダイバーシティマネジメントを展開し始めたのは、「社内起業家育成制度」の立ち上げと同じ15年のことだ。この年、中期事業経営計画に初めて「ワークスタイルイノベーション」や「ダイバーシティマネジメント」といった言葉が盛り込まれ、制度の拡充や意識改革の取り組みが開始された。
改革は「制度・風土・マインド」の3つをキーワードに行われてきた、と人材戦略室・人事開発部の統括部長である小井陽介さんは語る。制度面では在宅勤務や男性の育休取得の推進、「NewWork」などを活用したテレワークの拡充、また、子育て中の母親の社員たちから要望を聞き取り、産休・育休中のPC貸与や病児保育支援などの制度も織り込んだ。風土については管理職向けのセミナーや勉強会の開催を粘り強く行う――。1つ1つの取り組みを着実に続けながら、同時に女性総合職の採用を4~6割を目標に増やした。
マインド面では、女性管理職と若手女性社員の交流会「かがやきwith」を毎年開催。若手の不安解消と、管理職への志向を上昇させることを目的とした。会の後に実施した対象者へのアンケートでは9割近くが「管理職になりたい」と回答しているという。
鉄道事業本部・事業推進部の統括部長を務める女性管理職の1人、竹内智子さんは、そうした交流会などの意義を次のように話す。彼女は88年の入社で、同社における女性総合職の第1期生である。
「私はキャリア志向ではなく、目の前の仕事にコツコツと取り組むタイプでした。会社は平等に機会を与えてくれましたし、徐々に就労制度が変わってきたことで、続けられたと思います。最近の女性社員のほうがずっと意識が高いと思いますが、多様なロールモデルの1つとして、参考にしてもらえればと思っています」
小井さんは「こうした1つ1つの施策は地道なものですが、それを意味あるものにするために必要だったのは、人材戦略室がいかに本気かを見せることでした」と振り返る。
「『経営陣はダイバーシティと言うけれど、うちの会社はどれほど本気なのか』と社員は思うものです。そこで人材戦略室が率先してセミナーを開いたり、管理職の評価項目に『風土』を追加したりして意識の徹底を図ることを心がけました。社長以下全管理職に招集をかけるような動きは、それまでほとんどなかった。だからこそ、そこに大きなメッセージを感じ取った社員も多かったはずです」
例えば男性社員の育休取得についても、小井さんは「7割や8割という目標ではなく、人材戦略室から最初に100%の取得を宣言したこと」で、初めて大きな効果があったと感じている。実際に前出の大熊さんは10年に初めて育休を取得し、第3子が誕生した15年に2度目の育休を取得した。彼は「最初に育休を取得したときは、男性社員ではほぼ初の事例だったこともあり、戻ってきたら自分の席があるのかな、と不安でした」と話すが、1度目と2度目の「育休の取りやすさ」を比べると、周囲の同僚や上司の反応が明らかに違ったという。
「良い意味でのお互いさまという意識が生まれ、休むことを公にする発想が当たり前になっていたんです」