うちの会社で働いてもらって、体験してほしい
あれは僕に対する招待状じゃないかと思いました、と著者が笑う。「ならば、求めに応じて働いてみようと」。
今や国内に知らぬ者はいないユニクロは、アパレルで世界第3位のファーストリテイリング傘下。グループ総帥は名うての実業家、柳井正氏だ。そのユニクロが、2011年に著者が上梓した前作『ユニクロ帝国の光と影』で劣悪な労働現場の実態を暴かれた。
同社は版元の文藝春秋を名誉棄損で提訴したが、一審・二審で訴えを退けられ、14年末に上告を棄却されて完全敗訴。高額の損害賠償を求めたこの訴訟は「スラップ(批判的言論威嚇目的訴訟)」と批判された。
以降、同社に取材を拒まれ続けていた著者は、年を越したある日、柳井氏の対談記事(プレジデント誌15年3月2日号)を目にする。曰く「悪口を言っているのは僕と会ったことがない人がほとんど」「うちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかをぜひ体験してもらいたいですね」――これが冒頭に引用した“招待状”である。直前の司法判断などなかったかのような発言だ。
いったん離婚して再婚し、妻の旧姓に
これまでにもアマゾン・ドット・コムやヤマト運輸に潜り込んでルポを書いてきた著者は、いわば「潜入取材の達人」。今回は素性を隠すために便宜上、いったん離婚して再婚し、妻の旧姓を名乗った。
「潜入1年、というと長いようですが、実は余裕が全然ありませんでした。休憩や通勤を含む1日の拘束は約10時間。帰宅したら、現場で取ったメモを忘れないうちにワープロで起こすのが日課で、半年分がA4判で約300枚。店外でも50人は取材しました」