【あるIT企業のケース】

優先課題が本当に優先課題になるのは、それに資源が割り当てられたときだ。優先課題と資源配分を決めるプロセスで、私の知っている最もすばらしい例のひとつは、テキサス・インスツルメンツのDLP(Digital Light Processing=デジタル映像技術)事業部で行われているものだ。

ジョン・ヴァン・スコーターは、2000年にDLPのトップに就任したとき、競争力を維持するためには資源配分プロセスとともに優先課題の決定プロセスを大胆に見直す必要があると判断した。当時6週間かかっていた予算作成・資源配分プロセスをわずか3日に圧縮すれば、時間が短縮されるだけでなく、プロセス全体が意見の一致のために役立つはずだと、彼は考えた。DLPは動きの速い業界にあり、日韓企業との厳しい競争にさらされているので、この効率性は競争上の利点になる。

この見直し作業のため、ヴァン・スコーターは、全体像を細かく検討し、諸案を議論する困難な作業に、70人のリーダーを参加させることにした。それは改革の理由を彼らが真に理解する助けになり、彼らの部下の理解を高めると考えたからである。

このプロセスは、ヴァン・スコーターとDLPの3つの部門の責任者が翌年の目標と優先課題を発表することから始まる。それに続いて、これらの目標や優先課題がなぜ選定されたのかについて、白熱した議論が交わされる。こうした議論は縦割り意識を打ち破る。このプロセスには、リーダーたちに桁外れの辛抱強さと、技術屋が大多数を占める参加者からの不信感に満ちた質問をさばく技量が要求されるものだ。

その後、すべての参加者が売り上げ予測の諸事項を議論し、自分のものにする。全員が同じ認識を得ることで、3部門のそれぞれの優先課題と資源配分の土台を築くわけだ。参加者は全体予測とその内訳──売上高、製造費、研究開発費および宣伝費──を示す共通のスプレッドシートとデータベースを眺めながら議論を進めていく。

このような重要な決定を3日というぎりぎりの時間枠に圧縮することはリスクの高い賭けだったが、見事に成功した。新プロセスの成果は、明確な予測、実現に向けた真剣な取り組み、それにどのような決定がなぜなされたかや、そうした決定を導いた前提や根拠を誰もが理解していることだ。

フェレ・ランヘルの場合もヴァン・スコーターの場合も、優先課題に関する意思決定にこれほど多くの人を参加させるという挑戦が、参加意識と納得の点で大きな成果をもたらした。ヴァン・スコーターは、さらなるメリットは、3日間のプロセスの密度の高さが参加者の認知容量を押し広げ、部署を超えた協働を促進したことだと語っている。

(翻訳=ディプロマット)