【ある出版社のケース】

一部のマネジャーは、なにもかもやらねばならないという間違った考えの下、優先課題を多く設定しすぎている。

優先課題が組織の戦略を前進させるようにするためには、それを慎重に選定し、明確に表現しなければならない。次に紹介するリーダーは、自分の設定した野心的な目標に向けて組織を前進させてくれる少数の重要な優先課題を選ぶために、組織内の知的資本を幅広く結集した。

マリア・ルイサ・フェレ・ランヘルは、プエルトリコの同族経営の出版社、フェレ・ランヘル・グループのCEOだ。フェレ・ランヘル・グループは、プエルトリコで最大の発行部数を持つ「ヌエーバ・ディア」紙と若者向けの「プリメーラ・オーラ」紙という2つの新聞を持っている。フェレ・ランヘルは新聞の未来に対するインターネットの脅威を12分に認識して、この会社は大きく変わる必要があると判断した。そして、新聞をマルチメディア資産に変貌させること、およびプエルトリコの外で収益をあげる方法を見つけること、という2つの大目標を設定した。

彼女は、どのような優先課題を設定すれば、それらの目標に向けて会社を前進させられるかを見つけるために、副社長と部長と編集者を集めて会議を開いた。全員に過去数年の財務諸表が配布されたので、参加者は財務状況を詳しく知ることができた。

参加者は少人数のグループに分かれて、どのようなアイデアがよいかを議論した。いくつかのグループが、相当数のプエルトリコ系住民がいるアメリカの都市で新聞を発行するというようなアイデアを打ち出す一方、予想外とさえいえるアイデアも浮かび上がってきた。ラテンアメリカ系の他の報道機関と提携して、アメリカの新聞または新聞チェーンを買収するというアイデアや、リスクをヘッジするため、まったくタイプの異なる事業を事業構成に加えるというアイデアなどだ。全部で30近い優先課題の案が出された。

フェレ・ランヘルは参加者に、それぞれの案を細かく検討させた。「最も重要なアイデアを3つか4つ残すために、出された案を削っていった。なにもかも一度にやることはできないから」と、フェレ・ランヘルは語る。

会議の終わりには、いくつかの明確な優先課題が浮かび上がっていた。フェレ・ランヘル・グループには、2つの新聞に加えてバーチャルという小さな会社もあり、この会社は2つの新聞とは別に両紙のウェブサイトを運営していた。第1の優先課題は、その会社を拡大して、翌日の新聞をつくることに焦点を当てた従来の活動からマルチメディア対応にすること、および新聞から独立した別のウェブ活動を構築することができるようにすることだった。

2つ目の優先課題は、より階層の少ない機構、より協力的な企業文化を実現することだった。

フェレ・ランヘルが自社のかなりの人数のリーダーを集めて優先課題を決めることにしたのは賢明だった。その理由はいくつかあげられる。

(1)招集されたのは事業の複雑な諸事項を熟知している人たちだった。
(2)出席者は既存メディアに対するインターネットの脅威を理解していた。
(3)彼らは高所からの視点と地上レベルの知識の両方を備えていた。
(4)この幅広いリーダー・グループと協働することで、フェレ・ランヘルは社員全員から納得を得るための準備をすることができた。