ゴールデンウィークは祝日をつなぎ合わせた日本特有の大型連休だ。精神科医で早稲田大学教授の西多昌規さんは「日本の祝日数は世界最高レベルだが、年休など柔軟に休みが取りにくい。『みんなで一斉でなければ休めない文化』は国民のこころの健康に悪影響をおよぼしている」という――。
日本の5月のゴールデンウィークの終わり
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日本は祝日が多いのに休んだ感じがしない理由

5月の連休が終わると、7月15日の海の日までは、しばらくは国民の祝日がない。こう書くと日本は祝日が少ないように思えるが、日本には祝日法が定める祝日が年間に16日もある。祝祭日は、イギリスが8日、ドイツ、フランス、イタリアが9日、アメリカ12日だが、日本では16日であり、G7加盟国の中では最多である。祝日数を確保する振替休日も、日本特有の制度だ。

しかし、「休日が多くて満足」と感じている人は、実際には少ないのではないだろうか。要因の一つとして、有休・年休の消化率の低さもあるだろう。厚生労働省の調査によると、令和4年度の日本における平均有給消化率は56.6%、従業員数の少ない30~99人の事業者でみると、取得率は51.2%にまで下がってしまう。シンガポール93%、ドイツ90%(エクスペディア社による調査、2023年)には遠く及ばない。

満足度、幸福度が上がらない理由は、祝日数は世界最高レベルにあるにもかかわらず、年休など柔軟に休みが取りにくい、つまり「みんなで一斉でなければ休めない」という文化によるところが大きいのではないかと、5月連休前後になると再認識する。

一斉に休む日本の文化は、国民のこころの健康やウェルビーイング(幸福で肉体的、精神的、社会的すべてにおいて満たされた状態)にも良くない影響が目立ちはじめ、制度疲労を起こしていると考える。

【図表1】2022年の世界16地域における有給休暇の取得状況比較
世界16地域 有給休暇 国際調査2022(エクスペディア社、2023年4月27日)

旅行のすごい効果

大型連休は、言うまでもなく旅行シーズンである。旅行に行けないくらいで、精神疾患やメンタルヘルス不調に陥るわけではもちろんない。しかし、旅行というのは、気分転換だけでなく、わたしたちのウェルビーイングを高める重要な行動である(Dsouza & Shetty, 2024)。コロナ禍で旅行できなかった時期を思いだしてみれば、わかるだろう。観光体験が認知症の予防、進行を防止する可能性を示唆した研究もある(Wen et al., 2022)。

これに関連して、旅行によって健康の回復や健康増進を図り、そして旅をきっかけに健康リスクを軽減する活動が注目されており、ヘルスツーリズムと呼ばれる。観光客が幸福を体験することによって、観光客の健康も促進するという可能性も提唱されている(Vada et al., 2020)。コロナ禍後には観光客が押し寄せたように、旅行は食糧や住居のように生きるためにマストではないが、メンタルヘルス、ウェルビーイングにとっては欠かせない要素なのだろう。