サイバーエージェントが、アントレプレナー型人材の育成において重視してきたのは、「決断経験」である(曽山哲人・金井壽宏『クリエイティブ人事』光文社新書、2014年、曽山哲人『強みを活かす』PHPビジネス新書、2017年)。サイバーエージェントでは「決断経験」は、その人がかかわってきた仕事における(1)と(2)の大きさで決まると考えている。

(1)自分自身で決めたものが、どれだけ多くあるか。
(2)そこで決めたものが、その後どれだけインパクトのあるものになるか。

新卒社員がいきなり社長!?

では、「決断経験」を大きくするには、どうすればよいか。指示待ちの仕事をしているかぎり、40歳になっても50歳になっても「決断経験」は膨らまないまま、日々がすぎていく。

そこでサイバーエージェントでは、新卒社員に子会社の社長をまかせたりするなど、可能なかぎり多くの社員が、若いうちから決断経験を大きくしていくことをねらいとした人事を進めてきた。

「いきなり、その若さで社長がつとまるのか」と思われるかもしれない。では、サイバーエージェントではどうなのか。その答えは、やはり「できない」だという。しかし「できなくてもよい」のだという。どのようなロジックでサイバーエージェントは、このように考えるのか。

「なぜなら、それでもずっとまかせていくと、できるようになる」

これがサイバーエージェントの考えである。スポーツでも何でもそうだ。最初はできなくても繰り返していると、やがてできるようになる。

飯塚勇太氏は、サイバーエージェントへの入社前の内定者の段階で、子会社の社長となった。当時開発した写真共有アプリが、半年間で100万ダウンロードを突破する勢いを見せた実績を認められてのことである。しかし、その後この子会社が順風満帆であり続けたわけではない。スタートアップのきっかけとなった写真共有アプリは、利用者は多いが無料だった。収益源を確保するべく、新たに投入したアプリは不発で、子会社は倒産寸前に追い込まれた。

このような挫折も体験しながら、飯塚氏は、新たなアプリ開発者向けBtoBサービスの投入によって事業を立て直すことに成功する。その後はさらに新たな業態の事業も立ち上げながら、現在はサイバーエージェント本体の執行役員も務めている。飯塚氏は、20代で社長をつとめれば、失敗も起こりがちだが、「能力開花のスピードは上がる」と語っている。

経営者を育てたければ、経営者をやらせるのがよい。この大原則を外してしまったまま、研修だけでは人材は育たない。40歳で子会社の社長に就任した場合、それまでのビジネス経験はあっても、社長経験はゼロである。そうであれば、社長経験を早く積んでおく方が有利である。このような発想でサイバーエージェントは社内の制度を整備してきた。