スタートアップ創出をねらいとした制度

サイバーエージェントは、社内スタートアップの創出をねらいとした数多くの制度を用意している。以下では、その主要な制度運営を紹介していこう。

【あした会議】
「あした会議」は、サイバーエージェントの売上げと利益に大きく貢献している。すでに「あした会議」が生みだした子会社が、サイバーエージェントには20社ほどできており、累積で700億円ほどの売上げと100億円ほどの利益を生みだしている。

「あした会議」では、役員対抗で決議案を持ち寄ってバトルを行う。「こういう新会社を始めた方がいいのではないか」とか、「こういう人事制度を導入した方がいいのではないか」などの提案が行われる。

役員が率いるチームが参加して行われる「あした会議」(サイバーエージェントHPより)

「あした会議」は8人いる役員のうち、社長を除く7人の役員が各人チームを持つが、まずはチーム編成のためのドラフト会議からはじまる。ドラフト会議では1から7までトランプのカードを引き、1番を引いたら、1番目にどの部署の誰でも自身のチームに指名でききる。こうやって、営業MVPの山田君やデザイナーのエースの鈴木さんなどを獲得していき、各役員のもとに4名から成るチームが編成される。

「あした会議」には、各役員が自身の担当分野での提案は行ってはならないというルールがある。各役員が担当する部門以外の部門の課題や機会を見つけて、「あした会議」では提案を行わなければならない。

したがって、先の4名のチームメンバーは、直下の部下ではなく、他部門のメンバーを加える方がうまくいく。そうなると、役員たちは、管轄する部門以外の課題や機会に加えて、人材にも目を光らせておく必要があり、結果的に役員間の部門横断的な情報交換が進む。こうしてイノベーションが生まれやすい組織の土壌が養われていく。

【スタートアップJJJ】
「スタートアップJJJ」は、「あした会議」などを経て決まった新規事業の早期立ち上げを図る仕組みである。原則設立2年以内で、収益化していない新規事業を対象に、時価総額によって事業をランク分けしている。ちなみにJJJとは、事業(Jigyo)人材(Jinzai)時価総額(Jikasougaku)を意味しており、この3つを育成していくプログラムがスタートアップJJJである。

スタートアップJJJでは、時価総額が算定不能~1億円未満だと「シード」、1億円以上~5億円未満で「アーリー」、5億円以上~10億円未満で「シリーズA」、10億円以上~30億円未満で「シリーズB」、30億円以上~50億円未満で「上場前夜」となる。このように新規事業をランク付けすることで早期成長を促すと同時に、6四半期連続シード継続や3四半期連続粗利益減少すると事業撤退といった撤退基準を明確にしている。

その先は、時価総額50億円以上で「スタートアップJJJ」卒業となり、黒字化した事業を営業利益別にランク分けする上位プログラムの「CAJJプログラム」に入る。このように、新規事業を生みだすだけでなく、撤退基準を明確化し不採算事業への固執による損失の拡大を避けると同時に、新規事業へチャレンジを促す仕組みを設けることで、新たな収益事業の創出を図っている。

かつては退職率が30%もあった

サイバーエージェントでは、社内の制度設計にあたっては「挑戦と安心はセットで考える」ことを大切にしてきた。一般に人間は、失敗を怖れる。新規事業へのチャレンジに及び腰になるのは、失敗するのが嫌だからである。挑戦をうながす制度を用意する一方で、安心して働ける環境を整えておかなければ、社内で意欲的な挑戦が次々と生まれることはない。

スタートアップには避けがたく失敗が生じる。したがって、安心して働ける環境を社内に用意せずに挑戦をあおるだけでは、チャレンジングな行動をうながすどころか、萎縮させてしまう。