わかりやすさに潜む産経の問題

その後で産経社説は次のように主張する。

「太陽光など再生可能エネルギーの利用だけでは到底、不可能な目標だ。発電で二酸化炭素を排出しない原子力発電の安全利用が不可欠なのに、政府の対応は極めて緩慢であり、消極的にさえ見える。42基ある原発中、再稼働を果たしたのは5基にすぎない」

この原発再稼働という主張は、産経社説の真骨頂である。産経は福島第一原発の事故が発生した後も、「原発肯定」のスタンスを変えていない。ぶれないことはわかりやすさの基本ではある。

しかし福島原発の事故は、世界最大級の原発事故だ。死者こそ出さなかったが、福島県ではピーク時に約16万人が避難を余儀なくされた。福島県によると2017年10月現在も約5万4000人が避難生活を送っている。今後、原発自体の処理をどうしていくかも難問である。

それにもかかわらず、産経社説は最後にこんな主張をして筆を置く。

「各国とも個々の状況に即した環境とエネルギー対策の両立を図っている。日本の現況では、原子力の活用による実効性に裏打ちされた削減策の構築が急務である」

地球温暖化を防ぐには原発しかない。産経社説は初めから終わりまで「原子力」ありきだ。そこに産経社説の根源的問題がある。

ベース電源より「ベストミックス」と日経

次に産業界を重視する日経新聞の社説(11月21日付)をみてみよう。

「米国内でもパリ協定を支持する声は多い。国際社会は米政府に離脱を思いとどまるよう、粘り強く働きかけ続けねばならない」

日経社説はこう国際社会に要望する。

さらに今後の課題を鋭く指摘してこう主張する。

「新たな目標の検討に必要な温暖化対策の長期戦略は定まっていない。火力、原子力、太陽光などの最適な電源構成(ベストミックス)を将来的にどうするか早期に詰めなければならない」

なるほど、「ベース電源」より「ベストミックス」か。納得できなくもない。

だが考えてみると、日経は産業界の論理で社説を展開することが多い。ベストミックスに「原子力」を含めているところなど、日経らしい。大企業の多くは安定した電力が得られる原発に賛成だからだ。

日経社説は「COP23では、日本が国内外で石炭火力発電所の建設計画を進めていることに、戸惑いと非難の声があがった」とも指摘し、「日本は原発の再稼働が限られ、電力を石炭火力で補わざるを得ない事情はある。長い目で脱石炭を進めるにはどんな方法があるかも検討すべきだ」とも訴える。

産経社説に比べれば、静かな原発擁護ではある。