買い物をしているとき、「高いなあ、○○円なら買うんだけどなあ」、などと思うことはないだろうか。
買い物にも、ビジネスにも、見積もり感覚が必要だ。買い物は、お金とモノやサービスを交換することである。定期代を払って電車に乗り、コーヒーを買い、ランチを食べ、本を買うなど、1日に10回の交換(取引)をすれば、1年で3650回もの取引をすることになる。この1回、1回で受け取る対価が差し出す金額を上回っていれば、得がどんどん膨らむことになる。「この製品にはどれだけの原価がかかり、どれだけの利益が乗せられているのか」「それは受け取る側として納得できるものか」といった思考を働かせることが「見積もり感覚」であり、見積もり感覚がある人は、損な取引をしないで済む。
売り手側から考えると、売り上げによる利益を得るだけでなく、価格以上の満足感を与えることが重要である。売り手には利益、買い手には満足感が残る取引であれば、双方にメリットがあり、リピーターを生む。そして業績は拡大する。
また、見積もり感覚が身についているかいないかで、商品の価格変更に対する感じ方も違ってくる。
以前、大手ハンバーガーショップが、180円のハンバーガーを100円に値下げしたことがあった。多くの人が喜んだが、私は腹立たしかった。100円で売ることができるのなら、「はじめから100円で売るべきだ」と思ったからだ。
そのハンバーガーの原価率が60%だとすると、180円だったときの原価は108円。しかし100円で販売できるということは、原価率はもっと低いはずで、180円という価格では相当高い利益をあげていたことが推測できる。もともとの値段が高すぎた、ということだ。
そうでなかったとすると、100円に下げるためには、原材料の質を落とすか、サービスを劣化させてでも賃金を下げてコストを削るしかない。原材料の質の低下には不安が伴うし、サービスの劣化も歓迎できない。相当の技術革新がない限り、納得できない値下げなのだ。
もちろん、企業努力による値下げはあるだろう。しかしそれには限界がある。会計の見地から考えて、「2割以上の値引きは何かあると疑え」といっておきたい。粗利率は20~30%、営業利益は5%程度が適正であり、多くの企業はその水準に落ち着く。2割以上の値下げは、その水準を覆すものであり、理論的に説明がつかない。
実生活においても、結婚披露宴の費用のほか、一戸建てを建てるときやリフォームを行うときなど、見積書を目にする機会があるだろう。
建築請負契約に際する見積書には、材料費や人件費、経費、利益などの項目が記載される。しかし、材料費については、いくらの木材を何本使うかなど、その細目も確認すべきだろう。それによって、材料費に利益が上乗せされていないかなどをチェックできる。もちろん、複数の会社に見積もりを依頼し、比較検討すること、競合させることも重要である。
見積もりを読み解くノウハウはビジネスにも生かすことができる。
費用には、資産に計上できるものと、資産にならない費用(経費)がある。経費分も含めて資産に計上してしまうと、実態より資産を多く計上することになる。バランスシートを正確に作成するためにも、費用の内訳を明確にする必要があるわけだ。
また経費を明確にして確実に計上することにより、利益が抑えられ、税負担の軽減にも繋がる。
価格を見たら内訳がざっと推測できる。そんな見積もり感覚を養いたい。