昨年11月6日、トヨタ自動車が発表した2009年3月期連結決算の業績予想が、株式市場に大きな動揺をもたらした。売上高が前期比12.5%減の23兆円、本業の儲けを示す営業利益は73.6%減の6000億円という大幅な減収減益の見通しになったからだ。
いうまでもなく、原因は米国発の金融危機に伴う世界的な消費低迷と、急激な円高である。従来予想と比べると、売上高では2兆円、営業利益は1兆円の減少である。トヨタにとって営業利益が1兆円を割り込むのは8年ぶりのこと。この“トヨタショック”によって世界景気の先行きや日本企業の業績に対する懸念が強まり、翌7日のトヨタ株の終値は前日比350円安、率にして9.2%下げた。
しかし、業績悪化も、株価の下落も、「トヨタだからこの程度で済んでいる」というのが私の見方である。
日経平均株価とトヨタ株の動きを比較してみよう。昨年9月1日からの2カ月間で、日経平均は約30%の下落率であるのに対して、トヨタ株の下落率は約27%。確かに下げてはいるものの、日本を代表する225社の平均を下回る。
対して米国のビッグスリーはどうか。同じ時期、ダウ平均の下落率約20%に対して、代表格であるゼネラル・モーターズ(GM)株の下落率は約49%。ダウ平均の倍以上も急落しているのだ。
遡ってGMの03年と07年の業績をチェックしてみよう。1ドル=100円で換算すると、売上高は18兆4152億円から約3000億円の減少。さらに輪をかけて、最終損益は3525億円から、マイナス3兆8732億円の大赤字に転じている。財務状況に目を移すと、3兆7000億円もの債務超過だ。
営業利益率を見てみよう。GMは07年でマイナス2.4%。一方のトヨタは07年3月期が9.3%、08年3月期でも8.9%で、大企業の目安とされる5%台を上回る驚異的な水準を保っている。ここに、両社の原価管理の成果の差が表れている。言い換えるなら、1980年代以降の競争力強化に向けた経営努力の差である。
製造技術、マーケティング、環境対応などの研究開発……。どれもトヨタでは行われ、GMでは行われてこなかったものばかりだ。また、トヨタは景気がよくても一定以上は給料を上げず、コストカットの手も緩めなかった。一方、ビッグスリーの従業員は、トヨタの従業員より4割も多い賃金を得ているという。
米国政府ではビッグスリーのSOSに応じて次から次へと救済策を打ち出している。しかし、そんなビッグスリーの姿勢は「盗人猛々しい」としか言いようがない。そもそも、この状況で会社が存続していたことが不思議なのだ。見せかけの好景気のなかで自動車がそこそこ売れ、経営陣がそれに甘んじていたのが、今日の結果である。潮が満ちているときには見えないが、潮が引けばボロが出る。景気がいいときにこそ、先に手を打つことが重要なのである。
トヨタはそれができた。だからこそ、持ちこたえているのだ。そして、不景気のときに強いのは、トヨタのように潤沢なキャッシュを持っている企業である。いい物件を安く買うことができ、設備投資も有利に進められる。優れた人材の採用もできるからだ。
「不景気のこの時期にいわれても……」と嘆く経営者も多いだろう。残念ながら95%の経営者は、景気がよいときに業務見直しを断行できない。このことはトヨタショックから得た教訓としたい。そして今なすべきことは、コスト削減、不良債権の処理、在庫処分などのやり残した宿題を片付けること。売り上げの減少に呆然としている暇などないはずだ。