家電製品から寝具、美容器具、健康食品に至るまで、いまや通販で買えないものはない。カタログショッピング、テレビショッピング、ネット通販など、形態もさまざまである。
深夜、わが家のテレビには通販専門番組が映し出されていた。何十台かの健康器具の数量限定販売で、電話受付開始直後から、販売数が終了するまでのカウントダウンが始まった。次第に残りの台数が減っているかのようなやり取りが展開されているのを、「やらせだろう」と思いつつ、懐疑的に眺めていた。
しかし、何日かあと、何かのきっかけで知人にその話をすると、知人は「やらせではなく、本当だ」という。
知人はテレビショッピングで紹介された商品が欲しくなり、受け付け開始直後に電話をした。ところが、電話は混雑で繋がらない。やがて番組では残り数のアナウンスが始まり、やっと電話が繋がったときには、すでに予定販売数に達しており、購入できなかったそうである。
なるほど、私が聞いた受け付け開始直後からの販売状況の告知は、嘘ではなかったようだ。好調な売れ行きをアピールすることで、さらに売り上げが伸びる。
ラジオにもラジオショッピングのコーナーがある。担当者が「今日ご紹介するのは、前回、大変ご好評をいただいた……」と話し始めるのを度々、耳にするが、これも恐らく本当なのだろう。「買う」という行動を起こさせるのは、欲求という心理である。基本的に人は購買行動に繋がる欲求をガードしており、売るためにはこのガードを外させる必要がある。「限定何台」という数量限定を設けるのは、ガードを外すための効果的な装置に違いない。
物語の共有も、通販を熱くする要素のひとつだろう。たとえばあるテレビショッピングでは、薄型テレビの紹介で、6畳の和室(茶の間)にテレビを置き、家族で団欒している様子が放映されていた。登場人物は祖父母と孫らしき子ども。「この薄型テレビを部屋に置けば孫が遊びにきたときに喜ぶなあ」。そんな想像をする方もいるはず。疑似体験させることで欲求を高める効果がありそうだ。
テレビにDVDレコーダー、パソコンにプリンター、デジカメに専用の印刷機など、セットで販売する例も多い。セットで購入することで、メーンの商品の活用範囲が広がることをアピールすれば、商品の魅力が多角的に感じられる。意地の悪い言い方をすれば、要素が多くなることで、これを買ったら得か損かという判断は難しくなる。すでに買う気が高まっている人にとっては、無意識のうちに「得なんだという判断をしよう」といった心理が働かないとも限らない。
ラジオショッピングでは、パーソナリティによって売り上げが左右されると聞く。日中のラジオではとくに長時間にわたる番組も多く、リスナーにとってはパーソナリティが身近な人であるかのような錯覚を抱く人も少なくない。そんなパーソナリティが、「へえ、便利そうだね」「これはいいね」などと発言すると、信頼のおける友人が評価しているように感じ、警戒心を解いてしまう、ということもありそうだ。 さて、会計の視点でみてみよう。
店舗販売と通販の両方を行う例もあるが、通販の多くは無店舗販売である。コールセンターのオペレーターを外注すれば人的資産を抱える必要も、教育コストもかからない。究極の「もたざる経営」を実践しているのだ。設備投資が少ない分、借入金が少なく済んで金利負担が抑えられる、投資コストの回収に時間がかからないと、いいことずくめである。
それでは私も、通販番組のエンターテインメントを楽しんでみようか。